中小企業に「人事制度」の導入が必要な理由とは?

 日本の企業のうち99.7%を占める中小企業。現在、中小企業の多くは人材獲得が困難な状況に陥っています。厚生労働省が発表した2018年9月の有効求人倍率は1.64倍。人口が減少するなかで働く人の数は増えており、人材獲得の難しさが浮き彫りとなったかたちです。

 このような状況で中小企業に必要となるのは、1人当たりの生産性向上と優秀な人材を獲得・維持するための魅力的な職場環境の整備です。そして、このふたつの目標の達成に必要不可欠なのが人事評価制度の構築と適切な運用なのです。

 今回は、中小企業に人事制度が必要である理由について見ていきます。

 

■そもそも人事部の機能とは何か?
 中小企業における人事の問題を見ていく前に、人事の機能を確認しておきます。

 人事部には主に以下の5つの機能があるといえます。

 ①人材採用
 ②労務管理
 ③能力開発
 ④処遇決定
 ⑤人事制度の設計構築

 このような人事の機能は、中小企業においては総務や経理の人間が兼務で担っていたり、各部署の責任者に裁量があったりと、会社によって差異があるのが普通です。しかし、人事の機能で”何を実現しているのか”という点はどの企業でも同じです。

 人事の機能を通して社内に何を実現するかといえば、人材マネジメントの適性化と社員のモチベーションを高めることを通して、人材がポテンシャルを発揮できる環境を整えることにあります。このような人事の機能は非常に重要ですが、中小企業においては、その重要性が認識されない傾向にあるようです。それはなぜでしょうか。

 

■なぜ人事制度が注目されないのか
 中小企業において人事制度が注目されないのにはいくつかの理由があります。ここでは代表的な理由を3つ挙げてみます。

①人事制度よりも本業や財務に重きが置かれている
 中小企業においては、会社の存続に直結する本業や財務のプライオリティが高く、人事をはじめとする管理部門は後回しにされる傾向があります。人手不足となっている現在、直接的に利益を生み出す営業・開発のラインに人手を回し、間接部門の人員を減らしたいのが企業の本音となっているようです。

②人事制度に関する問題意識の有無
 経営層が人事制度の重要性を認識できていない可能性があります。社員数が少ない企業では、経営者が社内を把握できていると捉えがちで、人事制度の構築よりも個人の裁量に任せたほうが臨機応変に対応できてコストも少ないと考える傾向があるようです。

③社内調整の困難
 社内調整の難しさから人事制度の導入をためらうケースも見られます。同僚間・労使間の人間関係も良好で、会社が上手く回っているときには、わざわざ人事制度を導入して社内をかき回す必要がないという意識も働くようです。

 

■中小企業に人事制度が必要となる理由
 人事制度を積極的に導入する理由はどこあるのでしょうか。

①中小企業は年功序列になりやすい
 中小企業は年功序列になりやすい環境です。年齢や経験年数などがそのまま地位や給与に反映されやすく、仕事も属人化しているケースがあります。この状態は、優秀な社員にとって魅力的には映りません。なぜなら、仕事の割り振りが適切に行われるかどうかも実績が正当に評価されるかどうかも不明だからです。このような状態が継続してしまうと、社員のモチベーションの低下や離職率が高まりなどに直結していきます。

②歪な部署の編成による不具合がある
 人事制度がない中小企業は、部署の編成がその場しのぎになりやすく、歪な構造になっているケースが散見されます。例えば、異なる部署の人間が、他の部署の責任者に任命されているケースなどです。この場合、部署の働きを十分に見ることができず、部署内トラブルの見逃しや適切な人事評価が行われないなどの不都合が生じる恐れがあります。

③経営層と社員とのギャップの解消
 経営層が社員をよく見て管理できていると感じていても、社員が「よく見ていない」「その時々で基準が違う」「自分たちの裁量がわからない」と感じている可能性もあります。このような認識のギャップは問題が発生したときに噴出してきます。トラブルを未然に防ぐためにも、こうした認識のギャップを埋める人事制度は必要です。

④人事部門の重要性の高まり
 現在、人事部門の重要性が高まっています。従来業務に加えて、マイナンバーの管理、女性活躍推進法、改正育児介護休業法、副業の解禁などといった働き方改革推進などの動きによって、仕事が増えつつあるからです。こうした社会的な動きを自社に取り入れていくのは、人材の獲得や生産性の向上のためにも重要となっています。

 

■人事評価制度の導入を国も後押し
 厚生労働省は「人材確保等支援助成金」により生産性向上に資する人事評価制度の導入を後押ししています。これは、個々の社員の能力や仕事の成果を賃金に反映させる人事制度を導入した企業を対象に、助成金を支給するものです。たしかに、人事制度は企業に直接的な利益を生み出すものではありません。しかし、人事制度が未整備の場合、トラブル発生時や社員の増加といった変化に上手く対応できず、人材流出などの結果を招くこともあり、長期的に見て企業を上手く回せなくなる可能性が高まります。

 人事制度の導入は、社内にある種の形式主義を持ち込み、それまでのアットホームな職場からより「冷たい」企業へと変化させることもあります。しかし、人事制度の適切な構築と運用が行われれば、ルールが可視化されているぶん働きやすくなるため、経営者側と社員側との信頼関係の醸成にも貢献します。

 理想的な人事制度のあり方は企業によって異なっています。専門家のアドバイスなどを参考にしながら、すべての社員がポテンシャルを発揮しやすい環境を構築していくことが重要です。