杜の都のITしごとカンファレンス開催!参加者100名以上が集い、多様な働き方と東北の未来について考える

 MISPA(宮城県ソフトウェア事業協同組合)が主催する「杜の都のITしごとカンファレンス」が8月24日(土)、仙台市青葉区の仙台国際センターで開催された。同イベントは東北においてITエンジニアの多様な働き方を考えるきっかけづくりが目的。当日は、作家・ジャーナリストの佐々木俊尚氏による特別講演や東北で活躍する現役ITエンジニアとその関係者によるパネルディスカッションが行われ、100名を超える参加者が今後の働き方のヒントを得ようと登壇者たちの話に耳を傾けた。また会場では多くの地元IT企業がブースを出展し、訪れた来場者の仕事相談に応じるなど、自社の事業や働き方をアピールした。今回は、盛況のうちに終わった同イベントの様子をお伝えする。

佐々木俊尚氏特別講演「移動生活が当たり前になる時代にITエンジニアの新しい働き方を考える」

杜の都のITしごとカンファレンス開催!参加者100名以上が集い、多様な働き方と東北の未来について考える

地方コミュニティの変化を語る佐々木俊尚氏

 開会のあいさつの後、最初に行われたのは、東京と地方で複数拠点生活を実践する佐々木俊尚氏による特別講演。今回は、「移動生活が当たり前になる時代にITエンジニアの新しい働き方を考える」と題し、テクノロジーの発達によるワークスタイルの変化やITエンジニアの働き方の未来、また地方と東京の関係性の変化について、ITジャーナリストとして長年にわたって時代の最先端を追い続けてきた佐々木氏が自身の見解を披露した。

 佐々木氏は最初に生活スタイルの多様化に触れ、「今はPC・スマホだけあればどこでも生活ができる時代。今後はテクノロジーがよりいっそう発展することで、移動や通信手段もさらに手軽になり、地方都市、限界集落、都会の人がより繋がりやすくなる。現在も田舎の猟師と都会の人が繋がり、狩りを楽しむ『罠シェアリング』といったサービスも生まれており、今後はよりいっそう多様な地域と地域、人と人が繋がるコミュニティやサービスが増加し、複数拠点での生活者も自然と増えていく可能性がある」と話した。

杜の都のITしごとカンファレンス開催!参加者100名以上が集い、多様な働き方と東北の未来について考える 罠シェアリング

田舎の猟師と都会の人を繋ぐ「罠シェアリング」

 また、近年のキャリア選択について「これまで、優秀な人材は2000年代には外資系金融、2010年代には外資系ITを選択する傾向にあったが、2015年以降になると、地方でのNPO立ち上げなどをするケースが増えている。東日本大震災を契機に所属するコミュニティでの強い繋がりだけでなく、日々の生活や仕事で関わった多くの弱い繋がりを大事にする価値観の重要性も高まっている」と語った。

 最後にITエンジニアの役割の変化について、様々な可能性があるがと前置きした上で、「今後AIが各産業に浸透することで、災害時における人命救助や営業・販売・製造の効率化促進といった最適化が、第4次産業革命として間違いなく起こる」と指摘したうえで、「そうなると人と組織、人と機械といった新たな繋がりも当たり前になり、ITエンジニアの仕事もただプログラムを書くのではなく、AIに何をやらせるのか全体を設計し、運用する仕事に変わるだろう」とその展望を語った。

「東北で、ITエンジニアが理想のライフプランを実現する方法とは!?」
現役ITエンジニア、IT企業担当者によるパネルディスカッション

杜の都のITしごとカンファレンス開催!参加者100名以上が集い、多様な働き方と東北の未来について考える 登壇者

写真右から南條融氏、古山隆幸氏、伊藤研氏、伊藤正則氏、鈴木拓氏

 佐々木氏の講演後、フリータイムを挟んで行われたのが、佐々木氏をファシリテーターとした、東北現役ITエンジニアとIT企業担当者5名によるパネルディスカッション。地元仙台で活躍するITスペシャリスト達が東北で働くメリットやデメリット、その想いと現状を語った。

<登壇者>
楽天株式会社 シニアマネージャー 南條 融氏
株式会社イトナブ 代表取締役 古山 隆幸氏
株式会社PE-BANK 東北支店所属プロエンジニア 伊藤 研氏
株式会社エスクルー 代表取締役 伊藤 正則氏
株式会社エスクルー システム開発部チーフエンジニア 鈴木 拓氏

 最初にファシリテーターの佐々木氏から仙台・東北でITエンジニアとして働くメリット・デメリットについての質問があった。楽天の南條氏は「地元仙台に母親がいること、子供を自分が生まれ育った故郷で育てたい想いが強くなったことで、仙台支社初のITエンジニアとして戻ってきた。仙台で働くメリットとしては、東京にいたときと貰える給与が変わらないので、可処分所得が高いことや自然が多くてストレスなく過ごせること。東京の経営者との顔を合わせてのコミュニケーションはしにくい面はあるものの、そこは踏ん張ってこれまでキャリアを積み上げてきた」と語った。

 PE-BANKの伊藤研氏は自身のフリーランスの経験に触れ、「元々は正社員として20年ほど勤めた後に11年前にフリーランスへ転身した。その後、母親の介護もあって仙台に戻り、東京と仙台で働く生活をしていた。仙台の仕事は東京と比べて単価が低いが、場所を選ばず仕事ができたり、勤務スケジュールも柔軟にできたりしている。仙台では人と人の繋がりが深いため、共通の知人を通して人の輪が広がる面白さがある」と話した。

 エスクルーの伊藤正則氏は「最初は東京で10年ほどサラリーマンをした後に独立し、創業した2社のうち1社を売却するなど経営の仕事をしていた。10年ほど前に家庭の事情もあり仙台に戻ってきた。東京にいた時は毎朝の満員電車で疲弊していたが、今は仙台の事務所から徒歩5分の場所に住んでいるので心身ともに充実して仕事ができている。デメリットはほとんどなく、東京と仙台が距離的に近いこともあり、トラブルや何かあった時に仙台だとすぐ東京に行って対応できるのも魅力」と仙台の良さを語った。

 同じくエスクルーの鈴木氏は「今の会社に勤める前は東京と仙台で同じ仕事をしていても単価が異なり正直納得はできない面もあった。ただ、これまでずっとITエンジニアとして仙台で働いていて感じるメリット・デメリットは個人的には正直なく、何をメリット・デメリットとして捉えるかは人それぞれだと思う」と自身の見解を示した。

 イトナブの古山氏は経営者の立場から「正直、会社の事業として行う学生向けプログラミング事業はお金にならないので地方でするメリットはない。ただ、地方都市でこういった事業を行うことは、学びたくても学べない地方の若者の才能を伸ばすことができ、未来への価値が高い」と語った。

 ディスカッションでは仙台でのIT業界の現状について、仙台では東京からの受託案件が多い傾向にあり、ITで起業するような若手人材もまだまだ少ないなど、保守的な考えの人が多いことを問題として指摘。また、IT分野が宮城県全体の売上の1%ほどでブルーオーシャン市場であることや東北には大企業・上場企業が少なく、経済圏やIT技術向上のための勉強会の場も未成熟であることに関しても言及があり、古山氏は「仙台では東北大学にVCがあったり、スタートアップも徐々に出てきたりしている。仙台でしかできないような事業をするスタートアップ企業がもっと出てきてほしい」と若手起業家の輩出へ期待を寄せた。

 佐々木氏は他拠点生活者が増える中で、グローバルな海外人材との繋がりについても議題として上げ、鈴木氏が「海外のITエンジニアと話しをする機会がこれまでもあり、正直違いを感じないのでもっと海外の人と一緒にアイディアを話しあってもいいと思う」と海外人材との連携について展望を語った。また、「仙台で企業と地元、海外などを流動的にする突破口をつくるきっかけづくりができないか」との問いには、南條氏が「ITエンジニアがどこでも働ける職場環境を楽天で提供しながら、楽天イーグルスなどが地域密着でスポーツを盛り上げマネタイズすることも大事になるのでは」という回答があった。

 登壇者5名は今後仙台、東北で取り組んでいきたいことや目標についてもそれぞれ語った。鈴木氏は「プログラマーの仕事は、特にPCに苦手意識があると早期退職にも繋がりやすいため、未経験者でもしっかり育成ができる組織づくりを仙台でしていきたい」、伊藤正則氏は「仙台で従業員がご飯を食べられるように今後もしていくことが最低限の仕事、その上で仲間もどんどん増やしていきたい」、伊藤研氏は「フリーランスITエンジニアの仕事は案件に期限はあるが、収入ややりたい仕事を選ぶことができるのが魅力。仙台、東北でも活躍するフリーランスが増えてほしい」、古山氏は「プログラマーの若い人達の未来を考え、ITエンジニアがITエンジニアを育て学び教え合う文化をつくっていきたい」、南條氏は「東北の人の引っ込み思案なところを少しでも変えていきたい。ITはあくまでツールでしかないので、何か困った時にITで解決するという発想が出てくる環境を行政と一体となってできれば」とそれぞれの想いを語り、ディスカッションを締めくくった。

地元IT企業10社のおしごと展示ブースは、働き方や仕事相談で盛況を見せる

杜の都のITしごとカンファレンス開催!参加者100名以上が集い、多様な働き方と東北の未来について考える 相談会の様子

参加者の積極的な相談に企業担当者も応える

 メインイベントの合間には出展企業10社による会社紹介、仕事相談コーナーなどが設けられ、現役ITエンジニアだけでなく仙台での仕事やITに興味のある学生、社会人まで多くの人々が相談に訪れた。仙台に開発拠点を持つ大手企業が首都圏から人事を派遣したり、仙台ベンチャー企業の経営者自身が自社の事業やキャリアについて紹介したりするなど、東北でITの仕事をつくっていく意欲が伺われた。

 今回のイベントは、地元東北からの参加者だけでなく、東京から参加した人も見られるなど、ITエンジニアの働き方に関する注目度の高まりを感じさせるものとなった。参加者からは「今後の働き方やキャリアについて考える上で参考になった」などの声もあり、IT業界をこれから目指す人や現役ITエンジニア、ITに関わる企業まで多くの人が東北の未来について真剣に考えるきっかけとなった様子が伺えた。

【杜の都のITしごとカンファレンス概要】
■開催日
2019年8月24日(土)13時~18時

■主催
MISPA(宮城県ソフトウェア事業協同組合)

■後援
仙台市

■イベント事務局
株式会社PE-BANK

■特別講演
「移動生活が当たり前になる時代にITエンジニアの新しい働き方を考える」

作家・ジャーナリスト 佐々木俊尚氏
1961年兵庫県生まれ。愛知県立岡崎高校卒、早稲田大政経学部政治学科中退。毎日新聞社などを経て2003年に独立し、テクノロジーから政治、経済、社会、ライフスタイルにいたるまで幅広く取材・執筆している。最新刊は「広く弱くつながって生きる」。「そして、暮らしは共同体になる。」「キュレーションの時代」など著書多数。総務省情報通信白書編集委員。
AbemaTV「AbemaPrime」レギュラー出演。NHK Eテレ「世界へ発信!SNS英語術」、文化放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」レギュラー出演。

■パネルディスカッション登壇者
南條 融(なんじょう とおる)氏
楽天株式会社
ECカンパニー ECマーケットプレイスビジネスサポート開発部
ECビジネスエンパワーメント課シニアマネージャー

古山 隆幸(ふるやま たかゆき)氏
株式会社イトナブ 代表取締役
一般社団法人イトナブ石巻 代表理事
一般社団法人ISHINOMAKI2.0 理事

伊藤 研(いとう けん)氏
株式会社PE-BANK 東北支店所属 プロエンジニア

伊藤 正則(いとう まさのり)氏
株式会社エスクルー 代表取締役

鈴木 拓(すずき たく)氏
株式会社エスクルー システム開発部 チーフエンジニア

■出展企業10社
株式会社トレック
株式会社インフィニットループ
株式会社ねこまた
株式会社テンダ
株式会社SRIA
株式会社エスクルー
エリクソン・ジャパン株式会社
楽天株式会社
地球ソリューションズ株式会社
株式会社PE-BANK

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