東北との新しい出会いの場、仙台のライフスタイルホテル「OF HOTEL」、「東北創生のシンボル」を目指す想い

開業から間もなく1年を迎える、仙台駅近くのライフスタイルホテル

 仙台駅から北に向かって6分ほど歩くと、花京院(かきょういん)という商業地と住宅地が交差するエリアにたどり着く。そこで目を引かれるのが背の高い真っ白な建物。前には「OF HOTEL」(オブホテル)と書かれた看板がある。

OF HOTELは、仙台市内の主要道路である国道45号線との交差点角にある(提供写真)

OF HOTELは、2022年7月1日にオープンしたライフスタイルホテルである。コンセプトは「東北との新しい出会いの場」。運営・設計・デザイン等、東北ゆかりのクリエイターたちが結集し作り上げた。エントランスの床には十和田石や秋保石が、客室のフローリングには岩手県産の栗の木といった東北の素材が使われている。またカフェ・ラウンジの照明には青森県のアートプロジェクト「竹浪比呂央ねぶた研究所」による「ねぶた」の照明が設置されるなど東北で作られたものを使用する。さらに館内には東北の食材で作られた料理を提供するレストランがあるなど、随所に東北のカラーを出す。さらに東北で活動するアーティストや写真家の展示会といったイベントを開催するなど、宿泊者は様々な切り口から東北に触れることができる。

カフェ・ラウンジ内の「竹浪比呂央ねぶた研究所」による照明。開発には第一線のねぶた絵師が大きくかかわる

エントランス。産地も素材も異なる石材に映像を映し出す(提供写真)

なぜこのようなホテルを作ったのか、どのような想いを込めたのか、ホテル運営を担う株式会社COMMONS.(以下COMMONS.)HOTEL事業 事業部長の高橋元(たかはし・げん)さんにお話を伺った。

OF HOTEL設立の経緯と東北創生への想い

 OF HOTELの建物は、1975年築の元宿泊特化型のビジネスホテルだった建物を一棟丸ごとリノベーションしている。「以前この場所にあったホテルのオーナーより、“ホテル運営から手を引くことを考えているが、建物を有効活用できないものか”と、(弊社の関連会社である)株式会社N’s Create.(以下N’s Create.)に相談があったことがきっかけでした」と高橋さんは、当時を思い出しながら話す。

N’s Create.は、仙台市を主要拠点に不動産のリノベーションを業務としている。かねてからの繋がりがあり、ホテル運営に明るいu.company株式会社(以下u.company)に相談を持ちかけた。結果、建物をリノベーションし、N’s Create.とu.companyに大和ライフネクスト株式会社を加えた三社で新たなホテルを作り運営をしていくことに決定した。

どのようなホテルにするか、三社で足並みを揃えるために、新たに手がけるホテルのコンセプトを創り出すことになった。その時のことを高橋さんは振り返る。「まずイメージを共有するため、各社の担当者が顔を合わせ、“東北はどのような場所か”というブレインストーミングをするところから始めました」。

その中で出たのは、「東北は昔から引き継がれてきた豊かな自然や食材、伝統工芸などの良いところや、東日本大震災後に行われた新しい取り組みなど、多くの魅力があるにもかかわらず、他の地方にはあまり知られていない」、「東北の控えめな気質のせいか、広くアピールできていないのではないか」という話だったという。

高橋さん自身が生まれも育ちも仙台市内。東北への熱い想いが溢れる

「そこで、新しくできるホテルでは、東北のホテルとして先陣を切って発信し、知られていない東北の魅力を知ってもらえるような“東北との出会いの場”とし、次世代に引き継いでいけるような場所にしたいという“東北創生”への想いが生まれました」と高橋さんは語る。その結果「みちのくの魅力に光を当てて、東北の文化や歴史を未来に引き継ぐ」というホテルのスローガンが決定した。それはOF HOTELの原点となり、揺るぎない軸となっている。

東北を発信し、「東北との出会いの場」を目指すOF HOTELが目指すのは「ローカルセッション」という形である。出張客の利用が多いOF HOTELがターゲットとするのは「クリエイティブワーカー」と呼ばれる人たちだ。クリエイターに限らず、経営者、学生など属性は問わず、「自ら創り出している人」を指す。

東北との出会いの場の入口となる(提供写真)

各地からやってきたクリエイティブワーカーが、旅先である東北という非日常の場で、東北の人たちの日常の場で過ごす感覚を味わえれば、東北に愛着を持ってもらえるのではないかと考え、暮らすように過ごせるホテルを目指す。高橋さんは「クリエイティブワーカーたちがOF HOTELで体験したことや感じたことから東北の良さを実感し、それぞれの活動拠点に戻った時に東北で発見したことを仕事やこれからの生き方に生かすなど、何らかの価値観の変化があることを期待しています」と希望をこめて話す。

クリエイティブワーカーのお手本となる存在「ゼネラルコンシェルジュ」の役割

 OF HOTELを紹介する上で欠かせないのが、ホテルのスタッフである「ゼネラルコンシェルジュ」の存在だ。彼らの業務は、接客や備品管理などにとどまらない。高橋さんは「自分の好きなことや特技を生かした仕事をする、クリエイティブワーカーの手本となる存在と位置づけています」と語る。理想は「OF HOTELの思いを理解し、自ら動ける人」。

例として、高橋さんはある女性コンシェルジュの企画を挙げる。彼女は「東北大学学友会写真部」(以下東北大写真部)の展示を企画した。以前、写真部の作品展を見た時に学生たちの視点から撮影された写真に魅了されたのがきっかけだったという。
そこで自ら東北大写真部に連絡を取り、ホテルのコンセプトの理解を得た上で、展示会を企画した。こうして2022年12月1日から12月14日までの間、「大学生の見た仙台」というテーマで写真展が実現。1階のフロント周辺と、2階のラウンジやカフェに、写真部員たちが撮影した仙台の風景写真が展示されていた。

写真展会場となったカフェ・ラウンジ。カフェの利用客も多く鑑賞した(提供写真)

さらに彼女は期間中、ただ作品を並べるだけではなく工夫をこらした。会場に「交流ノート」と題したノートを置き、誰でも自由に感想を書けるようにしたのである。来場者からは「どれも素敵な写真でした」「今回の企画を通して改めて仙台の良さに出会えました」「学生からの目線がいいですね」等のたくさんの感想が寄せられた。一方でノートを見た写真部員からは「たくさんのお客様に様々な見方や捉え方で見ていただけたのがわかり、とても刺激的でした」という声があったという。「学生の視点で写した仙台の風景写真が大好評でした。来場されたお客様と写真部のみなさんに満足いただけたようです。交流ノートを通して東北の新しい出会いの場の役割を果たす展示となりました」と高橋さんは振り返る。

「交流ノート」表紙。ノートにはたくさんの感想が書き込まれた(提供写真)

東北の出会いの場だけではなく、地域貢献も

 OF HOTELの開業から間もなく1年が経とうとしている現在、ご紹介した東北大写真部の例のように「東北との出会いの場」としての役割を果たすと同時に、宿泊客を対象としたイベントにとどまらず、地域貢献も行う。

例えば医師を対象としたイベントの実施だ。5月2日に開催された「Tohoku Medical Cafe」は、在宅医療のマネジメントを行う会社が運営を担ったイベントで、これからの地域医療を牽引する若く志ある医療者同士が出会い・学び・気づきを得ることで、地域医療の未来を良くする取り組みに繋げていきたい」と考える医師らと企画、集い、語り合う場となった。今後の宮城県や東北地方の医療のあり方を探り、協働や連携に繋げることを目的としている。地域医療を守るための活動に繋がるきっかけの一つとして行っているという。

「今後も東北との出会いの場を作り、まだ知られていないローカルの魅力を発信していきたい。東北創生のシンボルとなるホテルをスタッフとともに創っていきたい」と高橋さんはこれからの未来に希望を込めるかのように語った。

HOTEL事業 事業部長の高橋さん(写真左)、ゼネラルコンシェルジュの市川マネージャさん(写真右)

【OF HOTELプロフィール】
所在地:仙台市青葉区花京院1丁目4-14
アクセス:JR・市営地下鉄東西線「仙台駅」徒歩約6分
開業日:2022年7月1日
建物について:地上10階、地下1階、55室
公式WEB・予約サイト:https://of-hotel.com/

【編集部後記】
私がOF HOTELを知ったのは、オープン前に見たnoteの記事でした。「東北との新しい出会いの場」というキャッチコピーを見てワクワクしたのを覚えています。仙台在住なので、OF HOTELに宿泊する機会はなかなかないのですが、イベント参加という形で関われることを嬉しく思っています。2023年2月に開催されたイベント「丸森の希少和紙を使ったインテリアパネル展」では、宮城県内で作られている「丸森和紙」を使った作品の展示を見ることができました。実は長年宮城県内に住んでいるにもかかわらず、初めて知った丸森和紙。特にヨモギを使った作品は、植物の持つ緑と和紙の白の色の調和が美しく、しばし見入ってしまうほど。素敵な作品に出会えました。地域住民にとってもOF HOTELは「東北との新しい出会いの場」になりうることを感じた出来事です。今回の取材を通し、東北に縁やゆかりを持ったOF HOTELの方々の東北創生への熱い想いに共感し、東北の魅力を多くの人たちに伝えるシンボルとしてあり続けて欲しいと感じました。(ライター 鈴木千絵)

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