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「仙台市 × 防災」震災後 10 年の歩み(4・最終回)市民協働で「防災」と「環境」がリンクする新たなまち「防災環境都市」

 東日本大震災の発生から10年。防災・減災の仕組みを取り入れた新たな街「防災環境都市」に向けた、仙台市の産官学金の取り組みを紹介する「仙台市 × 防災」。最終回となる連載4回目のテーマは、連載全体で取り組みを追っている、仙台市が掲げる次世代の都市ブランド「防災環境都市」。現在「杜の都」として知られるようになった仙台市の成り立ちや、そこから東日本大震災をきっかけに何が変わったのか。そして未来に向けた街づくりのビジョンについて、同市のまちづくり政策局防災環境都市推進室よりお話を伺いました。


(仙台市 まちづくり政策局 防災環境都市推進室より髙橋みちる氏(画像左)、佐藤陽介氏(画像右))

「環境都市」と「防災都市」をひとつのパッケージにした新たな都市ブランド「防災環境都市」

 仙台市は「杜の都」の由来にもなる豊かな自然環境と、都市機能の充実による利便性の高さを両立する現在のまちづくりに、地震や津波など自然災害への対応と、地球温暖化など次世代へ向けた環境配慮の 2 つを新たに盛り込んだ新たな都市ブランド「防災環境都市」の実現を目指しています。同市でその推進を担う部署である、まちづくり政策局防災環境都市推進室の髙橋みちる氏は「仙台市は、伊達政宗による藩政時代から現代に至るまで、緑豊かな自然と共存する暮らしを続けてきました。2011年の東日本大震災では、自然災害によって多くの人命や財産が奪われましたが、自然によって救われたものがあることもまた事実です。この『防災環境都市』では、震災発生から10年間続いた復興に向けた取り組みを、市民生活が防災面でも安全かつ環境にも優しい、総合的なまちづくりのあり方として打ち出し、当市が国内外から選ばれる都市となることを目指しています」と、その狙いについて話しています。


(仙台市が掲げる「防災環境都市」のビジョン(提供:仙台市))

同推進室は、防災産業の集積や学術機関と連携した防災に関する研究や知見の集積・発信、地域内におけるグリーンインフラの整備などハード面で都市の防災力を高める「まちづくり」と、教育や伝承を通じた人材教育などソフト面で都市の防災力を高める「ひとづくり」の2つを推し進める部署として、第 3 回国連防災世界会議で「仙台防災枠組 2015-2030」が採択された2015 年に発足。同推進室の佐藤陽介氏は「当推進室が活動を始めてからの5年間で、防災に関するハード面の整備はかなり進んできたという認識です。今後は自然と自助・共助が促進されるひとづくりに焦点を当てた活動を行っていこうと考えています」と、新たな局面へと入った防災・減災の取り組みの方向性を示しています。

自助と共助を育む「仙台版防災教育」

仙台市は震災によって得た多くの教訓を次世代の子ども達へ残すと同時に、災害時に自らの力を守る「自助」の力と、地域の防災や復興に協力する「共助」の力の2つを育むため、震災直後から現在まで独自の防災教育カリキュラム「仙台版防災教育」を推進しています。このカリキュラムは市内各地の小中学校が、関連する科目の授業を通じて自助・共助の源となる「知識および知能の習得」「思考力・判断力・表現力の育成」「学びに向かう力・人間力などの育成」の3つを、自然に身につけられることを特徴としています。震災発生の年から市内の小中学校から数校をモデル校として開発がスタートし、現在では、市内すべての小中学校がこのカリキュラムを使用できるよう整備が行われています。自治体が独自に防災教育カリキュラムを作ることは国内でも珍しい事例であると同時に、市民の防災・減災に対する参画意識を高める活動を自治体が行うことは珍しいとして、海外から高い関心を得ています。

(市職員による出前講座と、児童による防災マップづくり(提供:仙台市))

「市民協働」を通じた防災環境都市の実現

 同推進室はまた、市民と自治体がひとつの目的に向かって連携する「市民協働」の取り組みを強化することも、防災・減災における「ひとづくり」において重要な項目と示しています。市民活動を通じて育まれた「市民力」は同市の大きな強みと言われており、広く知られるところでは昭和49年に同市が制定した「広瀬川の清流を守る条例」や、昭和50年代から平成初期まで続いた「脱スパイクタイヤ運動」などに現れています。東日本大震災からの復旧・復興でもこの市民力が、避難所運営などで発揮されたと言われており、自治体としても共助を育む観点から引き続き支援していきたいとしています。

(市民による防災対策(提供:仙台市))

同推進室は「環境のことも防災のことも、市民一人ひとりの生活の中で自然に行われる、『まち』と『ひと』が循環する文化づくり」を、今後の「ひとづくり」の中核にしたいとしています。2021年は「市民と産業、それぞれを巻き込んだ議論の年」と位置づけ、豊かな生活と豊かな自然、防災への対応力の3つがバランスよく取れたまちのあり方を各々が主体的に考え、まちへと向き合うきっかけづくりを目的とした施策やキャンペーンを随時実施・展開していく予定です。その模様や成果は国内外へ順次アピールを行うと同時に、来年以降は全国・全世界へと巻き込む範囲を徐々に拡げていき、仙台防災枠組のゴールである2030年に向けて取り組みを進めていきたいとしています。

「環境」と「防災」が相互に繋がるまちへ

 仙台防災枠組が策定された 2015 年から活動を開始し、震災からの復興に向けた成果を積み重ねてきた同推進室ですが「防災環境都市」の実現には、いくつかの課題があるとしています。髙橋氏は「これまで当推進室が行ってきた活動は「防災」に特化しすぎたところがあったと認識しています。震災経験をまちづくりに活かしたい想いが強く「環境」と「防災」の相互作用についてアピールしきれないでいたのが、5 年間の活動を振り返ったときに見つけた課題です。防災と環境を掛け合わせてブランディングしている都市は現状あまり多くないため、当市が率先してそこに取り組み、その成果が広く知られるようになれば、都市しての優位性が高められると考えています」としました。また、佐藤氏は「防災・減災からスタートして、環境に繋がった事例がこれまでゼロだった訳ではありません。市内190箇所以上ある指定避難所すべてに太陽光パネルと蓄電池で構成された防災発電システムを導入した当市の取り組みは、緊急時の非常用電源と平時におけるエネルギーの地産地消が両立した、防災と環境が繋がった事例のひとつと考えています。仙台には誇れるグリーンインフラの数々があります。それは緑被率(ある地域における緑地面積が占める割合)の高さが、政令指定都市の中で浜松、広島に次ぐ 3 番目の都市となっていることからも確かだと言えます。仙台の中に眠るこれらの資源を活かした事例の積み重ねを通じて、コンパクトながらも自然と共存しながら暮らせる都市のあり方を目指したいと考えています」と、具体的な事例をもとに今後の施策の方向性を話しました。

(防災対応型太陽光発電システムの概要図(提供:仙台市))

髙橋氏は取材の最後に「当市は国際的な防災指針「仙台防災枠組」が策定された都市として、ドーハやパリ、北京と並んで SDGs ターゲットの中で名前が挙がった都市のひとつとなっています。そのため、当市が進める防災環境都市に向けた取り組みは、国際的な注目度が高いと言えるでしょう。SDGs が掲げる持続可能という理念は当市の施策全般に通ずるとともに、防災環境都市として防災・減災のグローバル化を推進する上でも重要な位置にあると考えています。多様な主体と連携したまちづくりを引き続き進めていくと同時に、当市が考える発信する防災・減災の理念を次世代に伝えることで、自然環境と人の命・財産の両方を守り育むまちの担い手を増やし、防災環境都市・仙台を末永く発展させたいと考えています」と、未来の世代に向けた期待を寄せています。

編集後記~「仙台市 × 防災」震災後 10 年の歩みの連載を終えて~

(仙台市のシンボル、定禅寺通り(提供:仙台市))

 これまで4 回に渡ってお送りしてきた「仙台市 × 防災」では、東日本大震災という大災害から仙台が復旧・復興し、世界に誇れる次世代のまち「防災環境都市」へ変わろうとする様子をお届けしてきました。仙台市が進める新たなまちづくりは、同市の愛称である「杜の都」の保全に向けた市民の環境意識と、東日本大震災の悲劇を二度と起こさせまいとする市民の防災意識双方に寄り添っていることに加え、国連が提唱する「持続可能な開発目標(SDGs)」にも適合した内容となっています。2011 年 3 月 11 日から 10 年が経過した今日。産官学そして市民による「より良い復興(ビルド・バック・ベター)」の取り組みが今なお続いている仙台市が、将来世界のロールモデルとなることを願ってやみません。

(ライター:菊池崇仁)

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