「地域に根付く事業にこそグローバルな視座を」 一粒1,000円の「ミガキイチゴ」を開発する株式会社GRAが描くビジョンと社会的インパクトとは!?【東北IMPACT STARTUP】

 「スタートアップ・エコシステム拠点都市」として新規ビジネス創出に力を入れている仙台市を中心に、東北では近年、社会に大きなインパクトを残す企業が多数誕生している。

その筆頭となるのが、宮城県山元町に本社を構える株式会社GRAだ。彼らのミッションは「農業を強い産業とすることで世界中の地域社会に持続可能な反映をもたらす」こと。一粒1,000円の「ミガキイチゴ」開発をはじめ、新規就農者支援や他業種とのコラボレーション、イチゴスイーツ専門店「いちびこ」の店舗運営など、“イチゴ”を軸に様々な事業を展開している。

株式会社GRAの代表は、山元町出身の岩佐大輝さん。東京と地元を行き来しながらイチゴ事業を展開する岩佐さんに、会社設立の背景や農業の可能性など、幅広く話を聞いた。

株式会社GRA 代表取締役の岩佐大輝さん

地方の企業こそグローバルな視座を持て

 株式会社GRA創業のきっかけは、2011年に起きた東日本大震災だ。当時の岩佐さんは、自身が立ち上げたIT企業の社長として東京で働いていた。地震が起きた直後にテレビを付けると、なんと実家の近所が津波で流されている。壊滅的な被害を受けた故郷・宮城県山元町を目の当たりにし、岩佐さんはそれまで考えもしなかった方向性に人生の舵を切った。「ずっと利益至上主義でやってたけど、これからは地域をいかに盛り上げられるかに取り組みたい」。つまり、人口が増える・雇用が増える・地域の平均所得が上がるといった“ソーシャルインパクト(社会に及ぼす影響力)”で、ふるさとの復興・発展に関わっていこうということである。当初はNPOを設立しボランティアで地域活性化を図ろうとしていたが、程なくして壁に当たる。ボランティアでできる範囲には、限界があると気付いた。小さな支援を続けていても、その間に地域はどんどん衰退していく。復興を待たず、若い世代が街からいなくなっていくのである。「もっとスピーディーに地域社会にインパクトをもたらさなければならない」と確信した岩佐さんは、震災から4か月後に山元町で株式会社GRAを創業した。

新事業を立ち上げるにあたり、注目したのが「イチゴ」だった。山元町は数十年前から全国有数のイチゴ産地であり、岩佐さんの祖父もイチゴ農家。幼い頃から祖父を見ており馴染みがあったことに加え、イチゴの市場規模は大きい。山元町で“復興ののろし”をあげるなら、イチゴ以上に最適なものはないという想いから事業の軸が決まったという。このとき岩佐さんが重要視したのは、近隣との地域間競争で勝つことではなく「グローバルに戦えるブランドをつくる」ことだ。その考えから生み出されたのが、GRAの基軸事業となっている「ミガキイチゴ」である。「宮城県内や福島や岩手など、小さな地域内で競い合っても意味がない。そうではなく、“世界の中の山元町”を目指すべきだと思ったんです」と岩佐さんは語る。

「ミガキイチゴ」のモチーフは、ダイヤモンドだ。「農業って、パッと美味しいものをつくれるわけじゃないんですよ。歴史があり、技術を磨き上げる必要がある。石ころを磨いてダイヤモンドにするようなイメージで、ミガキイチゴという名前を付けました」。

宮城を代表するブランド 食べる宝石「ミガキイチゴ」

グローバルに突き抜けるブランドをつくりたいと思った背景にも、震災が関わっている。岩佐さんいわく、「人って本当に辛くなると、近くの人と比べたくなるんです」。たとえば、災害時。極限状態に置かれたとき、隣家と比べ「うちの物資のほうが少ない」と悲嘆してしまうことがある。しかし隣と比較していても、状況はなにも変わらない。農業も同じで、近隣と戦って生産量やブランド力で勝てたとしても、グローバルに戦うことはできないのだ。

では、追い詰められたとき私たちはどうすれば良いのか。「視座を高く上げることが重要なんです。近くではなく遠くを見ることで、隣と比較する必要はまったくないと気付くことができます」。そして、「自分たちがどこに住んでいるかは関係なく、東北人としての気概を持って“世界の一員”であることを意識することが、東北を盛り上げていくことにつながると思います」とも言う。極論、東北を盛り上げたいからと言って東北に住む必要はない。東北で生まれたものを武器に全国、そして世界で戦えたほうが、地域社会全体への還元に繋がるからだ。だからこそ岩佐さんは、地域に根付く事業にこそ「グローバルな視座」が重要であるというのだ。

東北人としての気概を持って、世界で戦えるブランドをつくる

新たな価値を生むコラボレーション

 GRAは、積極的に他社とコラボレーションを行っている。岩佐さんいわく、同社は「徹底的な非自前主義戦略」。企業規模が大きくなるほど自社内にリソースを持ちすべてを完結させようとする傾向があるが、GRAの考え方は異なる。自社だけでやっていても面白いものはつくれない。だからこそ、「様々なプレイヤーと組む」のがGRAの戦略だ。そもそも、ミガキイチゴ自体もGRAだけのリソースで開発したのではない。「国や大学、企業を巻き込んだからこそ、ミガキイチゴのようなハイブランドの品質を開発できた」という。

ミガキイチゴをふんだんに使ったデザートや店舗も多くの人や企業との関わりから生まれた

コラボの一例に、宮城県の地酒・浦霞(株式会社佐浦)と開発したリキュール「ミガキイチゴ×浦霞 純米大吟醸仕込み」がある。純米大吟醸にミガキイチゴを漬け込んだリキュールで、イチゴの甘味や酸味・香りに日本酒の味わいが絡まる唯一無二の逸品だ。酒のプロ・イチゴのプロである両社が、それぞれの領域で「最高」と思えるものを組み合わせたことでこの逸品が誕生した。岩佐さんは語る、「浦霞は、グローバルに評価されている日本酒ブランドです。コラボすることで、浦霞のファンがミガキイチゴに注目してくれるんですよ」。一方、ミガキイチゴのファンが浦霞を知ることで「お互いのファンが相互作用し、新たな層にブランドを届けることができる」。なんでもかんでも自分たちでやろうとするのではなく、餅は餅屋精神で「僕らはイチゴしかやらない」と徹底。自社ブランドであるミガキイチゴの品質を磨き上げ、高いブランド力を持つ他社とコラボすることであらたな可能性を創出する。

コラボしたミガキイチゴ×浦霞 純米大吟醸仕込みのリキュールは「料理王国100選 2022」に入賞

株式会社佐浦のような飲食系企業以外にも、GRAは異業種とコラボを行っている。例えば郵便局だ。実は、都内にある多くの郵便局にはミガキイチゴのポスターが貼られており、郵便局でミガキイチゴを購入することができる。「農業や地域社会のことを知っていただくためには、僕らのことを知らない人にどう広めていくかが重要な活動なんです」と岩佐さんは言う。「都会と地域がつながることで、普段はまったく農業にアクセスしないような東京の方々に事業を提示できる。だからこそ、離れた業種とのコラボも大事にしているんですよ」。本来であればまったく混じり合わないプレイヤー同士がつながることで、新しい価値が生まれていくのである。

農業が持つ3つの可能性

 イチゴを軸に事業展開する中で、岩佐さんはなにを目指しているのだろうか。聞くと、岩佐さんは「重視している指標は、どれだけ農業者が増えてどれだけ地域社会が活性化するか」と語る。地域を盛り上げるために必要なのは、地域にインパクトをもたらすことのできる企業規模だ。社会的影響力を持つためには、少しでも大きく事業展開する必要がある。この想いは創業時から変わっておらず、当時は個人補償で数億円規模の借り入れを行って基盤をつくったという。資本をつくることで、「思いっきりアクセルを踏める」。事業を強くし規模を大きくすることで、GRAは「日本にあるイチゴ専門企業の中では、圧倒的にNo.1」に成長することができた。

事業を行う上で大事なことは、どれだけ農業者が増えて地域社会が活性化するか

また、岩佐さんは日本の農業にどんな可能性を見出しているのだろうか。訪ねると、岩佐さんは「大きなテーマなのでどう説明するか難しいけど」と前置きしたうえで「農業のすごいところは、地域社会の景色をつくる産業なんですよ」と語る。地方に行けば行くほど、その傾向は顕著になる。たとえば、放射能により人が住めなくなったエリアには荒廃した景色が広がる。元は農業で栄えた町だったとしても、人がいなくなれば雑草がおいしげり、荒廃した景観となってしまうのだ。農業と人が田舎の景色をつくると考えると、地域社会と農業には密接な関係性があるといえる。

農業は地域社会の景色をつくる産業

そして、「雇用のインパクト」も農業が持つ可能性のひとつだ。どんなに効率化しても、農業はある程度の人手が必要となる。GRAでは、2015年からイチゴ農家への新規就農支援を行っている。そこから13人が独立し、それぞれで雇用が生まれていることを考えると、地域にもたらしたインパクトも相当のものであると想像できる。さらに、岩佐さんいわく「農業はストレスフリーに働ける」職業だという。東京と宮城を行き来する岩佐さんにとって、山元町で農業に従事する時間は自身のワークスタイルを安定させるのに役立っている。朝早く起きてサーフィンをして、日中は農園をめぐり、美味しいイチゴを作り、食べる。そして仕事が終わったら、早めに眠る。ライフスタイルに農業が組み込まれているからこそ、健康な心身で過ごすことができているのだ。

新規就農支援のミガギイチゴアカデミーでは農業未経験の法人・個人が参加をすることが多い

総合すると、農業の可能性は「地域の景色、ワークスタイル、ライフスタイル」に見出すことができそうだ。岩佐さんいわく、農業は「人間が人間であるという価値がもっとも発揮される職業」である。最近はAIの発展がめざましく、AIの参入により立場が危うくなる職業もあると言われている。様々な作業が効率化されどんどん便利になっていく世の中だからこそ、農業のような仕事に価値があるのだ。「人間の価値って、五感を使って感じられることだと思うんです。それを1番発揮できるのが、農業なんじゃないですかね」と岩佐さんは語る。

世界中でミガキイチゴが食べられるようにしたい

 最後に、岩佐さんが目指すビジョンを聞いた。「山元町という町を越え、全国にGRAのテクノロジーが展開されていくことですね。そして、世界のいろんなところでミガキイチゴが食べられるようになったら良いと思っています」。ビジョンを達成するためには、仲間が必要だ。岩佐さんは「ピュアな人と一緒に働きたい」という。地域の活性化は、一足飛びでは実現しない。短期的に人を集めたところでうまくいかないし、特に農業は、大切に時間をかけて育む事業だ。だからこそ、重要なのはハードではなく、信頼し合える人間関係なのだ。岩佐さんは、取材を「日本全国、そしてグローバルでイチゴを作りたい人は、いつでも僕に声をかけてほしい。一緒にイチゴで世界を甘酸っぱくしましょう!」というメッセージで締めくくった。

日本全国、グローバルでイチゴを作りたい人へ呼びかける

【企業プロフィール】
会社名:株式会社GRA
住所:宮城県亘理郡山元町山寺字桜堤47
事業内容:イチゴを中心とした農産物の生産販売および輸出、加工商品開発販売および輸出、農業技術の研究開発、産地ブランド開発、新規農業者の就農支援事業、海外生産展開
HP:https://gra-inc.jp/index.html

復興支援や雇用創出に貢献すべく、スマート農業によるイチゴ栽培を目指して設立されたアグリテックベンチャー。イチゴ栽培にICTを導入することで、自社ブランドの「ミガキイチゴ」を生産・販売している。イチゴ栽培におけるICTとは、農家の暗黙知と経験を数値化しノウハウを可視化すること。データをもとに温度・湿度・日照量を定量的に管理するハウス環境制御システムを導入している。また、新規就農者に対するアグリプラットフォーム事業も展開。ICTを活用した栽培指導や経営ノウハウの共有、コストをおさえた栽培設備導入などを支援。さらに新規就農者が栽培したイチゴを買い取り、販路に流通させている。2020年6月には、アグリプラットフォーム事業の拡大・イチゴの通年栽培による安定供給と販売強化などを目的にシリーズB約3.3億円の資金調達を実施した。この資金調達により、栽培指導や販売支援の強化などを実現。さらにイチゴスイーツ専門店「いちびこ」の出店拡大につなげた。

【編集部後記】
取材は、東京・太子堂にあるイチゴスイーツ専門店「いちびこ」(GRAグループ「株式会社いいね」が運営)で実施しました。あらわれた岩佐さんは「いちびこ」スタッフに「久しぶりだね、元気してた?」など気さくに声をかけており、人間関係の良好さを感じることができました。取材でも「信頼できる人間関係が重要」とお話されており、東京・山元町を行き来しながらもそれを実現しているのだなと感じます。特に印象に残っているのが、「東北を盛り上げたいからと言って、必ずしも東北に住まなくても良い」というお話。私自身、仙台出身で現在は東京に住んでいます。地元に貢献できる仕事をしたいと思いつつ、距離を理由になかなか実現できない日々。いつしか東京に住んでいること自体に後ろめたさを感じるようになっていましたが、取材を通じ「遠くにいるからこその視点で地元に貢献できることを考えよう」と思考を方向転換することができました。余談ですが、「いちびこ」で購入したスイーツが絶品でした!今後なにかあるときの行きつけにしたいと思います。(ライター 堀越愛)

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