【TOHOKUイノベーター】「国際協力を通じて、人の可能性を広げる仕事をしたい」山形大学地域教育文化科学部異文化交流コース4年生 尾形 千紘さん
今回インタビューに応じてくれたのは、昨年の秋からLocalBook編集部でのインターンに参加し、今年の春にJICA(独立行政法人国際協力機構)で新社会人となる山形大学地域教育文化学部の尾形千紘さん。大学生時代には、積極的にいろいろなコミュニティに参加しながら国際協力に興味を持ち、チリへの一年間の留学経験もある。今回はそんな尾形さんに、東北での学生時代のことや4月からの社会人生活についての話を聞いた。
IVYyouthに力を注いだ学生時代
―山形大学ではどんな学生でしたか?
正直、山形大学が第一志望ではなかったので、大学に入ったら人一倍いろいろなことにチャレンジしたいと思っていました。大学の国際交流サークルIF、山形県の河北町でのKIRAキッズクラブのボランティアなどにも参加していましたが、IVYyouth(アイビーユース)という国際協力団体での活動が一番思い出深いです。IVYyouthは、東北での国際活動の活性化と若者の経験の幅を広げることを目的に設立された認定NPO法人IVY(以下IVY)を母体に活動している組織です。「IVYを通じて知り合った東北の若者が結束し、自分たちができる国際協力を主体的に考え、行動し、世界の平和を目指す」ということを目的に活動しています。母体であるIVYの本部が山形にあることから、現在は山形や仙台の若者がメンバーとなり、カンボジアの小学生への算数教育支援や国内で国際理解教育のワークショップを行っていて、ここでの活動を中心に学生生活を送っていました。
―IVYyouthに入ろうと思ったのはなぜですか?
理由は二つあります。一つ目は、通っていた小学校や中学校で、国際交流に力を入れていたこともあって、国際協力の活動自体に興味があったことですね。恵まれた環境で育ったなかで自分が受け取ってきたものを、誰かのために還元していきたいと思っていて、国際協力というフィールドであれば実現できると考えていました。二つ目は、中学生の頃にお会いしたIVYの理事の方に大学に入ってから再会したことです。実は中学三年生の頃、通っていた中学校でIVYが主催する国際理解を目的としたワークショップが行われました。この時に初めて理事の方とお会いしたのですが、大学入学後にIVYの本部が山形ということもあり、理事の方とまたお会いすることができたのも大きな理由ですね。東北には国際協力に取り組む団体が少ないので、IVYyouthのような団体で活動出来たことは、本当に幸運だったなと感じています。
―IVYyouthではどんな活動に取り組みましたか?
IVYyouthは国際協力や国際理解教育、環境教育などの活動をしていて、カンボジアの小学生に対する算数教育支援や先生方とのワークショップなどに取り組んでいました。特に印象に残っているのは、カンボジアの先生方や大学生との交流ですね。最初は勝手に支援者のつもりでいたのですが、自分なりに工夫して授業をしている先生方や優秀な同年代の学生に出会って、より良い教育を追求していきたいという想いが生まれました。また、自分よりも賢い人や高いスキルを持った人が生まれた環境に縛られて、それを活かすことができていない現状を垣間見て、「誰かの可能性を広げる仕事がしたい」という気持ちに気づけたのも大きかったです。あとは、日本でのメンバー同士のミーティングも印象に残っていますね。普段の大学生活において、友達と関わるなかで、何かについて本気で意見を言い合うような経験は少なかったのですが、IVYyouthは一人ひとりが国際協力に対して熱い想いを持っていて、けんかになるほど熱く議論をし合える仲間と一緒に活動出来たことは学生生活の中で一番の宝物だと思っています。
就職活動を辞め、チリ留学へチャレンジ
―留学しようと思ったきっかけはなんですか?
大学三年生の秋から始めていた就職活動がきっかけとしては大きいかもしれないです。東京の企業のインターンへ参加したり、他の就活生と会話をする中で、ずっと行きたいと思っていた海外への留学を諦めてまで、急いで就職をする必要が本当にあるのかなと感じていました。また、以前から、漠然と将来は海外で働いてみたいと考えていたこともあり、海外で生活することで自分の視野を広げてみたいと思ったのも大きな理由です。その二つがきっかけで、留学に行く決心をしました。
―どこの国を選んだのですか?
チリに一年間行きました。二年生の時に大学の短期派遣プログラムで南米に行ったことがあり、南米に留学に行こうかなと思っていました。南米のなかでも、チリを選んだ理由は二つあります。一つ目は、自分が学びたいことを学ぶことが出来る環境があったことです。具体的には、スペイン語と専門である英語教育について学びたいと思っていました。私の専門が英語教育だったのですが、チリでは教育省が英語教育を行う教員をサポートするプログラムを大々的に行っていました。これをチリでの英語教育という文脈で学びたいと思いました。二つ目は、より自分の知らない環境に飛び込んでみたいと思ったことです。実は、留学先として南米のなかでも、ボリビアとチリで迷っていました。ただ、ボリビアは短期派遣で南米を訪れた時に友達や知り合いが多くできたので、せっかく留学に行くのなら、より苦労しそうな環境に行きたいと思い、チャレンジという意味を込めてチリに行くことにしました。
―留学生活は何をされていましたか?
国立タルカ大学の教育学部に所属して、英語やスペイン語を学びました。授業に慣れてからは、現地の学校で教育実習の機会や日本語を教える機会をいただき、週に一回日本語のクラスを担当していました。また、高校生の女の子から依頼を受けて日本語のレッスンを行ったりして、充実した留学生活でしたね。留学生活を通じて、自分の武器と言えるくらいスペイン語は成長したと思っています。私は周りの留学生に比べて、スペイン語をあまり話せなかったのですが、この状況を受け止め、色々な場に顔を出しに行ったり、パーティーに積極的に足を運んだりしていました。その甲斐あってか、スペイン語を話せなくても友達もできましたし、自分で飛び込んでいく姿勢が身に付いたように感じています。また、帰国後は周りからどう言われるかを気にせずに、自分の意見や考えをしっかりと主張できるようにもなったと思っています。周りの人からも変わったねと言われるくらい、自分も変化を感じる部分ですね。
多くの人や情報に触れ、「人の可能性を広げる仕事がしたい」
―帰国後は何をされたのでしょうか?
2度目の就職活動をして、JICA(独立行政法人国際協力機構)で4月から働くことに決めました。IVYyouthや留学での経験を通して、JICAは開発途上国への国際協力を担っており、生涯かけてやりたい仕事だと感じたことが入構を決めた理由です。国際協力についてより深く学べる環境としてJICAは自分に合っていましたし、何より面接で自分の本音を素直に話すことができたことも決め手でした。
―卒業までの期間、長期インターンをしようと思ったのはどうしてですか?
JICAでこれから働くことを考えた時に、自分の知らない分野にも興味を持つことが必要だと感じたからですね。JICAは日本の国際協力を一貫して担っています。日本が国際協力を行う時には基本的に税金を使っていますが、最近ではそれだけでは足りなくなり民間の企業の力を借りて支援することも多くなっています。より多くの分野の知識を持っておくことで、支援する国とその国に必要な技術を持っている企業をつなげやすくなるのではないかなと思ったことが長期インターンを始めた理由です。
―長期インターンの活動のなかで、心に残っていることはありますか?
DA・TE・APPS!2020の連載企画の取材が一番思い出に残っています。連載を始めた9月からDA・TE・APPS!本番の2月にかけて取材してきましたが、学生と実際にビジネスを行っている企業の方が本気で意見を交わしているのが印象的でした。また、DA・TE・APPS !のIT部門で審査員をつとめた株式会社NTTドコモ・ベンチャーズの篠原敏也さんが言っていたことも心に残っています。篠原さんは、子供の教育をすべて学校に任せるのではなく、地域の大人が一緒になって子供を育てていきたいと考えていて、DA・TE・APPS!もその取り組みの一つと言っていたことが心に残っています。仙台でもっとこういう機会が増えてほしいし、多くの人に知ってもらいたいと思いました。また、このようなIT関連のイベントを通して、自分にとって未知の分野に関心を持てたこともインターンに参加したからこそ出来たことだと思います。
―4月から東京での新生活について、聞かせてください!
一番楽しみなのは、いろいろな人や情報に触れることですね。全世界で国際協力をする人達が情報を持ち寄ったり、意見を交わすことのできるオンラインの国際協力サロンに今所属しています。今まではこのようにオンラインでしかアクセスできないものが多かったけど、実際に東京で生活することで、自分で足を運んでさまざまなイベントに参加できる機会が増えると思います。国際協力に関するイベントはもちろんですが、興味のあるスペイン語に関するイベントにも参加したいと思っています。JICAでは、民間企業や自治体と連携して途上国を支援する取り組みに力を入れています。「人の可能性を広げる仕事がしたい」気持ちが強いので、取り組みをもっと盛んにしていつかは途上国の新しい支援形態を生み出したいですね。
【プロフィール】
尾形 千紘(おがた ちひろ)
宮城県仙台市出身、山形大学地域教育文化科学部異文化交流コース卒業予定。
2020年4月JICA(独立行政法人国際協力機構)入構予定。
国際協力に興味を持ち、大学時代は国際協力団体であるIVYyouthのメンバーとして活動し、その後チリへ1年間留学。
【LocalBook編集部後記】
尾形さんの大学時代の経験は、誰もが経験できることではなく、人一倍強いチャレンジ精神や行動力を持つ尾形さんだからこそ経験できたものだ。また、インタビューをするなかで、ぶれることのない強い芯を持っていることを感じた。なにより、4月から社会人として働くことにワクワクしている姿が印象的で、尾形さんの今後の活躍に期待したい。