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【岩手・宮城】東北移住者たちのホップ産業! 官民一体となって取り組む遠野市の「ビールの里プロジェクト」をプロデュースするBrewGood(岩手)と石巻の人と耕作放棄地のリカバリーを目指すイシノマキ・ファーム(宮城)が発信するホップ産業の魅力と可能性

 「ホップ」と聞いて、ハーブの一種だと分かる人はどのくらいいるだろうか。ビールに苦味と香りをつけるために使用され、名前を耳にすることが多くなったホップ。今、東北移住者たちが産業の再興や新事業で、このホップの可能性を広げている。今回は東北におけるホップ産業について、株式会社BrewGood 代表取締役 田村 淳一 氏(岩手県遠野市)と一般社団法人イシノマキ・ファーム 代表理事 高橋 由佳 氏(宮城県石巻市)にお話を伺った。

盆栽のように美しいホップ畑

ホップの聖地・遠野「ビールの里」へ

 田村氏(BrewGood代表取締役)は和歌山県南部の小さな村の出身。東北オープンアカデミー(東北の先進地域を巡るフィールドワーク)の一期生として、2015年に宮城県気仙沼市を訪れたのをきっかけに、東京で民間企業に勤めながら東北の様々な地域を視察。最終的には縁があり2016年春、遠野への移住を決めた。「過疎化の問題を抱え、さらには今後、南海トラフ地震が送るかもしれない地元のためにできることはないかと以前から思っていました。震災から4年が経っても復興作業が続いている現状をみて、東北に身をおいて課題解決の当事者になってみようと決意しました」と語る。

株式会社BrewGood 代表取締役 田村 淳一 氏

 BrewGoodは2018年に設立。日本随一のホップ生産地である遠野で「ビールの里」の具現化のために、まちづくりのプロデュースを行なっている。この具現化に向けた取り組みはBrewGood設立前から、田村氏は有志らとともにその基盤を築いてきた。

醸造所兼レストラン「遠野醸造TAPROOM」

 遠野市で20年以上前からビールを醸造していた「上閉伊酒造(ズモナビール)」に続き、新しい醸造所を立ち上げるために「株式会社遠野醸造」を袴田大輔氏(経営・営業責任者)、太田睦氏(醸造責任者)と共に2017年11月に設立。また2018年5月には、醸造所兼レストラン「遠野醸造TAPROOM」を遠野駅前に開業した。「この場所で色々な人が出会い、ビールをハブに新たなコミュニケーションがどんどん生まれていく。ブルワリーやコミュニティの場があることでこの町で暮らすことが少しでも豊かになるような存在になれたら」と田村氏は振り返る。

ホップ農業の課題解決へ

 「ビールの里プロジェクト」は日本産ホップの持続可能な生産体制の確立を通じて、地域活性を目指していく。「農業としてのホップ栽培を考えると課題はたくさんあります。新規就農者も稼げるモデルにするためにはどうすれば良いのか。初期投資や、設備の更新の費用をどうサポートしていくのか。そういった農業の課題に向き合いながら、プロジェクトを進めています」と田村氏。

収穫時のホップ

 2020年には、新型コロナウイルスの影響があった地域事業者をサポートするために「TONO HOP BOX」を企画。遠野のビールと食材をセットにした商品で、遠野市のふるさと納税の返礼品としても取り上げられている。

TONO HOP BOX

 「ホップやビールの関係者だけでなく、地域の事業者を巻き込んで、遠野市の産業を盛り上げていきたいと考えています。昨年の遠野ホップ収穫祭では2日間で12,000人もの来場者を集めるなど、ビールの里プロジェクトへの注目も高まってきていると思います」と、ホップやビールを軸にしたまちづくりの可能性を見ている。
イシノマキ・ファームも研修やビアツアーへの参加で遠野を訪れており、ホップ栽培や体験ツーリズムなどの仕組みを運営に反映させている。

イシノマキ・ファームでの収穫体験

イシノマキ・ファームがホップで育む ソーシャル・ファーム

 イシノマキ・ファームのホップファームは、東日本大震災の甚大な被害を受けた宮城県東部に位置する白浜(石巻市北上町)にある。この浜には麦酒を奉納するという、ビール神社(通称)があるというから驚きだ。代表理事の高橋氏は、精神保健福祉士と職場適応援助者の資格を持つ。出身は仙台市(宮城県)で20代の頃は石巻に住んでいた縁もあり、震災直後の2011年には石巻で認定NPO法人Switch(心の病を持つ方や障害者の就労就学支援団体)を設立し、現在も理事長を務める。

代表理事の高橋由佳氏と企画コーディネーターの加納実久氏

 イシノマキ・ファーム立ち上げのきっかけについて高橋氏は、2013年に開設した“ユースサポートカレッジ 石巻NOTE(若者対象の就労就学支援施設)”での農業体験にあるという。「これまで就労活動にあまり乗り気になれていなかった若者が生き生きとしていたり、年配の方は若者に農業のノウハウを教えることで生きがいを見つけたりと、農地や農作業には人をリカバリーさせる力があると思ったんです。それで農地と農業が多様な世代や社会に繋がる就労支援をつくりたいと思いました。」と高橋氏。

 イシノマキ・ファームのホップ栽培は、株式会社ホップジャパン(日本の食とクラフトビールを世界に発信)がホップの株を植えてくれる人を探していると知人から紹介され、石巻にもホップが自生していたことから株を譲り受け、2016年に就労支援の一環としてはじまった。また、ホップは薬用ハーブとしてもその効果が認められているため、利用者の心のケアにも期待したいという。

高橋氏は「はじまりはビールづくりをするためではなかったんです。使わせてもらっている畑や事務所など、人との出会いや繋がりから活動が広がってきています」と振り返る。そして、石巻でもホップが育つことがわかり、2017年2月から本格的にビールづくりのプロジェクトをはじめ、同年7月には自社ホップをふんだんに使用した「巻風エール(醸造:世嬉の一酒造)」が完成した。

巻風エール

 企画コーディネーターの加納氏は、2018年4月から企画コーディネーターとしてメンバーに加わる。震災復興支援をきっかけに石巻へ移住し、現在は愛知県(出身地)との2拠点で活動をしている。

遠野と石巻から発信される ホップの魅力と可能性

 遠野で栽培されているホップには「IBUKI」という品種があり、「キリンビール一番搾り とれたてホップ生ビール」にも使われている。また「MURAKAMI SEVEN」という新しい品種の栽培も始まった。このホップは、イチジクやミカンの香りを強く感じられ爽やかなのが特徴。ホップ産業の今後について「農業としてのホップ栽培を未来へと繋げていくために、遠野で“ビールの里プロジェクト”を軸に課題解決を進めていきたい」と田村氏。

遠野市のホップ畑が生む美しい風景

 イシノマキ・ファームでは 4種類のホップ(カスケード・マグナム・センテニアル・カイコガネ)が栽培されている。2020年9月30日発売にされた、穀町ビール醸造「の・ビール」(宮城県仙台市)。このクラフトビールに、東松島市(宮城県)の大麦とイシノマキ・ファームのフレッシュホップ(カスケード)が使用されている。

石巻市北上町産ホップ使用「の・ビール」

 そして今後も、ホップ農家としてやれることを模索しビール以外でもホップ自体の魅力を磨いて、発信していきたいという思いを込め、2020年10月10日「I – HOP CAFÉ(石巻市渡波)」をオープン。イシノマキ・ファームが栽培するホップを使ったクラフトビールや紅茶、アイスが楽しめる。

 また、就労支援の拠点とする築120年の古民家「Village AOYA」では、農作業体験ができるファームステイや研修・ボランティアツアー・修学旅行など企業団体向けの体験プログラムを行ないながら、関係人口増加を図る。

【プロフィール】
株式会社BrewGood
遠野市のビールの里プロジェクトをプロデュース。ビールを軸に社会課題の解決を目指し、企業や自治体、個人の挑戦を支援。ビールの力によって、社会を少しずつ良くしていくことをミッションとする。

一般社団法人 イシノマキ・ファーム
宮城県石巻市に2016年開業。「農」と「人」が循環する仕組みづくりと農業体験・就農体験・ファームステイ・有機無農薬栽培での野菜やホップ作り、クラフトビール製造を行なう、ソーシャルファーム。

<株式会社BrewGood>
https://brewgood.jp

<株式会社 遠野醸造>
https://tonobrewing.com

<キリン 遠野産ホップのまちづくり>
https://www.kirin.co.jp/csv/connection/hop/japanhop/tono/

<TONO HOP BOX>
https://www.furusato-tax.jp/product/detail/03208/4908960
https://tono-furusatoya.ocnk.net/product/1335

<一般社団法人イシノマキ・ファーム>
https://www.ishinomaki-farm.com
https://www.instagram.com/ihop_cafe/

【LocalBook編集部後記】
 今回の取材はイシノマキ・ファームの加納氏が行なう「Run For BEER!」という、石巻市内をランニングして、巻風エールを楽しむというイベントに誘っていただいたのがきっかけで実現しました。東北でつくられているクラフトビールを飲み比べると、ホップの種類によって香りや苦味の風味が異なり、とても感動。生産者や醸造者の皆さんは独自のクラフトビールを生み出し広めるために日々、研究と周知活動をされながら、地域社会との繋がりも育んでいました。まだ東北のクラフトビールを味わったことのない方は、ぜひこの機会に飲み比べしてみてはいかがでしょうか!(ライター:太田和美)

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