【TOHOKUイノベーター】「住む場所に関係なく自己実現できる社会へ」仙台出身の学生起業家|株式会社Raccot 代表取締役社長 小松田乃維さん

 小松田乃維さんは、仙台出身の学生起業家。2025年1月現在、大学でビジネスについて学びながら、在学中に自ら立ち上げた株式会社Raccotの代表取締役社長も務めています。

自社の事業はもちろんのこと、イベントへの参加などを通じて、地元でも精力的に活動している小松田さん。今回のインタビューでは、これまでの歩みや手がけている事業のこと、そして、東北への想いについて語っていただきました。

株式会社Raccot代表取締役社長 小松田乃維さん

ミッションは自己実現を諦めない人を増やすこと

─ご自身と会社の紹介をお願いします。
小松田乃維と申します。宮城県仙台市出身で、情報経営イノベーション専門職大学(通称:iU)への進学を機に上京しました。今は大学4年生で、まもなく卒業を迎えます。

在学中には、ソーシャルメディア・web3事業を行う株式会社ガイアックスでのインターンなどを通じてビジネスの経験を積み、大学3年生の2月に株式会社Raccot(ラコット)を設立しました。現在は、オンラインインターンシップのマッチングプラットフォーム「ReMova(リモバ)」を運営しています。

─「ReMova」について、詳しく教えていただけますか?
オンラインでインターンを行いたい学生と、同じくオンラインやハイフレックス形式で学生を受け入れたい企業をマッチングするサービスです。学生は自分の情報を登録することで、企業が掲載しているインターンや業務委託案件の募集を見ることができます。プラットフォーム内での応募やチャットも可能です。

「ReMova」は地方の学生と首都圏の企業をつなぎ、遠方からでも最前線を行く刺激的な環境での社会体験ができるような場を提供できればという思いで作りました。

首都圏では、インターンを通じて学生のうちから社会に関わるのが一般的になりつつありますが、地方でインターンをしている学生はとても少ないんです。仙台の大学に通う友人から「将来やりたいこととは関係ないけれど、お金を稼ぐために仕方なく今のバイトをしている」という話もたくさん聞き、なんだかすごくもったいないなと感じていました。

でも、コロナ禍を経て「オンラインで働く」ということに対する認識も変化しました。それなら、地方の学生と都内の企業がつながる機会を作れるのではないか、と思ったんです。住みたい場所や住まないといけない場所があるなど、条件は人それぞれですが、どこにいても自己実現ができる時代であり、多くの選択肢が転がっているということをサービスを通して伝えたいです。

「ReMova」は地方の学生をコアターゲットにしていますが、首都圏の学生の中にも「夕方までみっちり授業が入っている」「家や大学が郊外にあり、移動時間が取れない」といった人は少なくないので、現状は、オンラインでインターンをしたい学生みんなが入れるプラットフォームにしています。私自身も、大学1年生の頃から空きコマや夜の時間を使い、大学の単位を全て取りながらオンラインインターンを行ってきました。

─実際に事業を始めてみて、いかがですか?
「ReMova」を通じて、学生と企業のマッチングが生まれている一方で、地方の学生にサービスを紹介すると「いきなりオンラインはハードルが高い」という声も聞こえてきました。確かに、オンラインだと人が見えないところからのスタートになるので、その気持ちもわかります。

そこで、まずはタッチポイントを持ってもらうことが大事なのではないかと考えました。現在は、大学と連携しながら、企業と学生をつなぐイベントの企画も進めています。

「ReMova」サービスサイト(https://remo-va.com/)

「知らない」=「できない」にしたくない

─地方の学生への支援にこだわる理由を教えてください。
地方では、首都圏に比べて、キャリアの選択肢や挑戦の機会が格段に少ないと実感したことが大きな理由です。

たとえば、私は高校生のときに留学を経験していますが、地元では割と珍しい選択でした。でも、都内だと、高校生でも留学する子はもちろん、親元を離れて寮で暮らしている子もたくさんいました。

それに、全国から東京に集まった学生の中に入ってみると、多方面で精力的に活動している人が驚くほど多くて。仙台にいた頃は、自分が挑戦しようとしていることはとてもハードルが高く、特別なことだと思っていましたが、「東京では意外と普通のことだったんだな」と気づかされました。

こうした経験を通じて、仙台にいたときは、選択肢を考えたり、機会を得たりするための情報自体が本当に少なかったのだと、改めて感じたんです。私は、何か小さいことでも、ひとつ知った瞬間に大きく人生が変わる人もいるのではないかと思っています。だからこそ、地方の学生にも、住んでいる場所に関係なく、平等に情報を得る機会を提供していきたいです。

─地方と東京の間には、情報格差があるということですね。
「情報を得たいならスマホを使えばいい」と思う人もいるかもしれませんが、スマホがあったとしても、なかなか情報に辿り着けないケースは多くあります。

一つ事例をご紹介します。ある東北地方の高校の生徒で、学校に行くことが辛くなってしまった子がいました。高校は出席日数が足りないと卒業できないため、ご家族の方は、通信制高校への転校を考えたそうです。

しかし、そのご家族は「通信制といっても登校しなければいけない日があるし、こんな田舎から通える通信制の高校はないだろう」と思い込んで、詳しく調べることすらしなかったと聞きました。しかし、実際には、ほとんどオンラインのみで完結できるようなシステムは存在していました。本人は「無理にでも登校しないと次の進路がない」と八方塞がりに思えてしまったと思います。

この話を知ったとき、私は「固定観念のせいで、選択肢が狭まってしまうこともあるんだ」と驚いたんです。同時に、ネットで情報を調べるためには「自らキーワードを打ち込む」というハードルがあることにも気づきました。自分が全く知らない言葉や、思いもよらない概念を検索することはそもそも不可能ですよね。

だからこそ、根本的なレベルでの情報格差が最も怖いと思いました。特に、学生は、親の意向や知識の幅、さらには経済状況にも影響を受けるので、そういった世代にフォーカスして情報提供をしていきたいと思っています。

起業のマインドが形成された小学校〜高校時代

─仙台で過ごした時期のことを教えてください。
実は、小・中学生時代は、あまり学校に行けていない時期がありました。田舎の方では、制服を見ればどこの学校か簡単にわかるので、コンビニにいるだけでも目立ちます。学校を休んで息抜きがしたくてもなかなかできず、「東京ならもっといろいろな人がいるから目立たないんだろうな」と思いながら過ごしていました。

それと同時に、不登校を認めない風潮に違和感を持っていたので、そんな世の中を変えていけたらいいなと思っていました。「東京の大学に行ったら、あれやって、これもやって……」と将来のビジョンが感覚的に見えていた部分もあります。自分でも不思議なのですが、学校に対して感じていたマイナスな思いさえも、「私がいつかなんとかしよう」という気持ちで受け止めていました。

─昔から起業を志していたのでしょうか?
起業を意識したのは、高校3年生のときでした。当時、私は留学中だったのですが、新型コロナウイルスの影響で打ち切りになり、途中で緊急帰国することになってしまったんです。

留学の終わりが急だったこともあり、帰国後の私には所属先がなく、勉強を教えてもらえる場所もありませんでした。そんな状況でも、大学に入学するためには勉強しないといけません。そこで塾に通い始めることにしたのですが、その塾が入っていた場所が、仙台市内にあるシェアオフィス兼コワーキングスペースの「enspace」でした。

「enspace」に通ううちに、徐々にスタッフの方と仲良くなり、学生起業家の方ともたくさん出会うことができました。そのときに「私も起業の道に進んでみたいな」という思いを抱いたんです。最初は、塾があったからという理由でたまたま行った場所でしたが、自分にとって転機となるような出会いだったと思います。

インターンで得られたかけがえのないもの

─ご自身のインターン経験について聞かせていただけますか?
大学4年間を通じて、株式会社ガイアックスでインターンを続けてきました。ガイアックスは、一人ひとりの人生や、やりたいことに寄り添ってくれる会社です。個人的には、単に人に仕事を振るのではなく、人のポテンシャルを見て一緒に仕事を考えるという組織のあり方にとても感動しました。私の場合、仙台でミュージカルに出ていた経験を買っていただき、ピッチイベントの司会などを任せてもらっています。

また、ガイアックスに業務委託で関わっているメンバーには、自分の会社を持つ起業家がたくさんいます。私が会社を設立する際には、メンター的な存在になってくれたので、感謝の気持ちでいっぱいです。

─インターンの良さを教えてください。
インターンを通じてさまざまな仕事に挑戦する中で、「世の中にはこんな仕事もあるんだ」「思わぬところにビジネスのニーズがあるんだ」と知ることができました。インターンには、大学に通っているだけでは得られない学びがあると思います。

また、インターンを通じて出会った人もたくさんいます。こうした学びやご縁は、就職や起業に直結するものになると、4年間のインターンを通じて感じました。

だからこそ、インターンというもの自体がもっと広まってほしいですし、挑戦する人も増えてほしいなと思っています。もちろん、受け入れる会社側は、最初から完璧な成果を求めているわけではないので、学生さんには安心してチャレンジしてほしいです。

ピッチイベントで司会を務める小松田さん

仙台は大切なふるさと

─東北での活動について教えていただけますか?
2024年11月には、女性起業家の方を対象にしたイベント「GIRAFFES JAPAN TOHOKU」で、株式会社RECEPTIONIST代表取締役CEOの橋本さんとトークディスカッションをさせていただきました。中学生を対象とした「宮城県ネクストリーダー養成塾」にも講師として登壇しています。

こうしたイベントには、仙台にいた頃の知り合いからお声掛けいただいて参加することが多いんです。仙台では、自分が学校に行けずに苦しかった時期を過ごしているので、当時を知る人に認めてもらえて、話す機会をいただけるのはとても光栄ですね。話している最中にも、感慨深く今までのことを思い出します。

仙台で暮らしていたときの経験は、今の事業にも直結しているので、正直どこよりも東北のイベントに出られることが一番嬉しいです。これからも、日程さえ合えば、どんなイベントにも出るスタンスでいます。

─地元に対する思いを聞かせてください。
学校に対しては複雑な気持ちを抱くこともありましたが、仙台という街自体はずっと好きなんです。これまでの経験の中で、東京も、いろいろな地方も見てきたからこそ思うのは、仙台は本当に住みやすく、みんな優しいということ。地元に帰ると「やっぱりあったかいな」と思います。

東京出身の人とお話すると、「年末年始も帰る場所がないから寂しい」とよくおっしゃるんです。私は、東京は仕事をする場所で、仙台は自分に戻る場所という棲み分けができているので、大きな安心感があります。今は、故郷と言える場所があることを誇らしく思いますね。

「GIRAFFES JAPAN TOHOKU」トークディスカッションの様子

東北の人々に伝えたいこと

─まずは、大人の方へのメッセージをお願いします。
当社の事業とも関連しますが、企業の皆様には、積極的に学生インターンを受け入れてほしいと思います。受け入れにあたっては教育のコストもかかると思いますが、学生のうちから社会と近づく経験は、きっとかけがえのないものになるはずです。企業様にとっても、多様な学生との出会いはのちのち素敵なご縁になると思います。

また、インターンという形に限らず、中学校で行う職業体験のように、学生がさまざまな経験をできる機会が増えたらいいなと思います。「高校生だから何もできない」ではなく、「高校生だから自分たちにはない視点がある」と受け入れる気持ちを持っていただけると嬉しいですね。

─学生たちにもメッセージをお願いします。
学生の皆さんには、本当に自分の好きなことに挑戦してみてほしいです。

多くの方は、高校生のときに、おおよその進路の方向性を決めると思います。もちろん、今も高校生のときの選択が正解だと思える場合はいいのですが、必ずしも全員がそうとは限りませんよね。

たとえば、医療系の学校に進学したからといって、必ずその業界の仕事に就かなければいけないとは決まっていません。私は、大学で経営を学んで起業しましたが、同じ学部でも、卒業後はゼロからマーケティングや営業の仕事を始める人がたくさんいます。

一度進路を決めると「もう引き返せない」と思い込んでしまいがちですが、ぜひ柔軟な思考を持って、いろいろなことにトライできる人が増えたらいいなと思います。

将来のビジョン〜きっかけを与えられる人に〜

─卒業後の進路について教えてください。
大学卒業後は、慶応義塾大学の大学院に進学します。自分の会社の経営も続けるので、仕事と研究の二足のわらじを履き、事業に活きるような研究に取り組む計画です。

大学院では、生体情報からキャリア支援に役立つようなツールを開発していきたいと考えています。

たとえば、入社試験などの際には、適性検査を行う企業が多いですよね。最近では、キャリアの適性を判断するためにMBTI診断が活用されることもあります。しかし、こうしたツールは、自分で回答を選択するので、エゴが入ってしまう部分もあると思うんです。そういった恣意性をなくし、無意識レベルの情報から本人の適性を測るツールを開発してみたいと思っています。

最終的にはこのプロダクトを発展させて、その人が一番輝ける生き方まで含めて考えるようなキャリア支援を手がけてみたいです。

─最後に、これからの目標を教えてください。
私は常に「人にきっかけを与えられる存在でありたい」と思っています。たとえば、私と同じように学校に行けずに悩んでいる子がいたら「私はこういう大学に進学して、起業したよ」「今が不登校でも、大学院まで進めるよ」と伝えてあげたい。

ただ言葉で説くだけではなく、私の会社や研究、そして私自身の生き方を見て「だったら私も大丈夫かもしれない」「自分も何か始めてみよう」と思ってもらえるようになりたいです。そのためには年齢や経験が必要な場面もあると思うので、これからも時間をかけて、じっくりと築いていきたいなと思います。

プロフィール
小松田 乃維
宮城県仙台市出身。2020年4月に開学した情報イノベーション専門職大学に2期生として入学。大学3年次には、株式会社Raccotoを設立し、学生起業家となる。大学4年間を通じて、株式会社ガイアックスでのインターンを経験。2023年からは、同社の子会社である株式会社DAOエージェンシーの代表取締役も務めている。

【LocalBook編集後記】
小中学校時代のネガティブな体験をポジティブなエネルギーに転換し、場所に関係なく誰もが自己実現できる社会を目指して進み続ける小松田さんは、キラキラと輝いて見えました。小松田さんのもたらす光は、地方在住の学生たちの未来を明るく照らしていくのだと思います。今後は、起業家としてはもちろんのこと、研究者としての活躍も楽しみです!(ライター:池田 智海)

ピックアップ記事

関連記事一覧