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【TOHOKUイノベーター】「個性が生きる社会へ」優しさと笑顔で繋がる日常の実現を目指して、一歩を踏み出す HMK DESIGNチーフディレクター/複業フリーランス 小山美穂さん

 美大での挫折を経験し、自分が今後どうなっていきたいかを深く考えた学生時代が現在のキャリアの出発点となったと話してくれたのは、HMK DESIGNチーフディレクター/複業フリーランス 小山美穂さん。学生時代のインターン、エンジニアとしての経験を活かし、現在は「複業フリーランス」として、スタートアップ企業や自社サービスを展開している企業のWEBサービス/アプリディレクションや、デザイン作成/コーディング(一部開発を含む)を担当するなど、多岐にわたる事業を展開している。今回は、現在の働き方や活動に至るまでの背景、大切にしている信念について詳しくお話を伺った。

東北で複業フリーランスとして活動する小山美穂さん(提供写真)

挫折を出発点にキャリアデザインを考えた学生時代

 幼い頃から絵を描くのが好きだった小山さんは、将来は美大に行きたいと考えていたという。小学校でも様々な賞をとり、自信と希望をもって地元の美大へと進学した。しかし、そこで待ち受けていたのは周囲との力の差。ふと気がつくと、創作意欲が湧かなくなっている自分に気づいた。

そんな中で転機となったのは、大学2年生で参加した半年間のインターンでの経験だった。インターン先は地元の建築会社で、広報に関わる仕事に携わる。「Facebookで集客用のページを作成した際に、フリーランスが所属するチームHMK DESIGNの代表から連絡をもらったことが、現在のキャリアにも繋がっている」と小山さんは話す。

HMK DESIGNとの出会いによって、「フリーランス」という働き方に魅力を感じたという。学生スタッフとしてインターンをしながら、今後どうしていきたいかを深く考え、自身の好奇心をもとに価値観を広げたいと考えるようになった。自分で働く時間を決められる自由な働き方ができるという魅力、HMK DESIGNのスタッフがいきいきと仕事をしている姿を目の当たりにして、「フリーランス」という働き方を目指すようになったという。

未経験エンジニアとしての3年間

 「3年後にフリーランスになる」という目標の実現に向け、大学卒業後はエンジニアとして東京の情報通信サービスの事業会社に入社。「フリーランスになるには手に職をつけた方がいい」と考えた末、エンジニアという職業を選択したという。

大学時代で少し学んだプログラミング言語の知識はありながらも、エンジニアとしては全くの未経験。これまでの経験とはかけ離れた要求をされる日々の中で、論理的な説明や技術の習得への苦労があった。「ファーストキャリアとしては苦労が多かった」と話す小山さんだが、仕事に慣れてくると、エンジニアという枠を超えて様々な仕事を任せてもらえるようになったという。そのような環境に感謝しつつも、あくまでも本業はエンジニアとしてWebサイトの裏側の仕組みを作る作業であることに立ち返るたび、「デザインの観点から、見た人に感動を与えられるようなデザインをしていきたい」という気持ちが湧き上がってきたと小山さんは話す。

そのような気持ちの変化が動機となり、副業として、見た目に関わるデザインの仕事を始める。当初決めていた「3年後」というフリーランスになるまでの期間を、エンジニアとして過ごしながら、副業でも継続的な仕事の獲得や実績を積み重ねた。大学卒業後から、首尾一貫してフリーランスを目指した日々の経験が実り、2021年ごろからフリーランスとしてのキャリアをスタートする。

Social Impact Acceleratorプログラム(SIA)への挑戦

 フリーランスとして働き始めたタイミングで、小山さんは友人から、新規事業創出に関わる3日間のイベントへの誘いを受ける。その中で行われたコンテストでは、友人のアイディアをもとに優勝することができたという。そうした経験から、「今度は自分のアイディアで挑戦したいという思いが心の中に芽生えた」と小山さんは話す。そのイベントの運営をしていた方との出会いに導かれ、Social Impact Acceleratorプログラム(SIA)への挑戦を決意する。

Social Impact Acceleratorプログラム(SIA)とは、この社会を少しでも良くしたいという想いをもった方をサポートし、その想いが実現されることを願って、2017年度より仙台市と共に実施されてきた社会起業家育成:支援プログラムである。一人ひとりの想いが、ソーシャルインパクト(社会のよりよい変化)として具現化されることを目指したプログラムとして、「インパクトコース」と「ビジョンコース」の2つのコースが用意されている。小山さんは、解決したいと考えている社会課題を構造化しながら明確化していき、どうやってその課題を解決するかという変革仮説を考える「ビジョンコース」に参加した。小山さんの考える「ビジョン」の背景には、過去に家族がうつ病であったこと、その家族としての葛藤があった。

「当時うつ病の家族に対して、どう接したらよいか悩んだ」と話す小山さんは、大きなビジョンとして、「うつ当事者の家族向け支援」を掲げる。SIAのプログラム内では、専属のメンターと共に試行錯誤をしながら、少しずつビジョンの細部を明確化していったという。その過程では、「自分のアイディアに囚われすぎて、自分が本当に解決したい課題が見えにくくなってしまうという迷いがあった」と当時を振り返った。アイディアの原点となった自身の過去の経験の中で、うつ当事者の家族に対する接し方をそばで見ていながらも、病院の先生に相談がなかなかできなかったという想いがあった。そうした自身の経験から、うつ当事者の家族同士が悩みを共有したり、相談したりすることができるプラットフォームの構築を主軸に、事業の詳細を肉付けしていった。

SIAの発表当日にプレゼンをした事業の名前は、「スマイルfamily」。優しさと笑顔でつながる日常の実現を掲げ、うつ当事者の家族同士をつなぐ仕組みを発表した。この事業では、家族同士が匿名で気軽なつながりをもつこと、「今悩む家族」と「経験した家族」をつなぐことを可能にするシステムの実現を掲げる。発表では、「とにかく熱意を伝えることを大切にした」と話す小山さんは、SIAの経験を経て、さらに事業アイディアが膨らんだと話す。

SIAの発表で「スマイルfamily」への熱意を語る(提供写真)

今後目指すこと、信念

 小山さんにとって新しいチャレンジであったSIAの経験を経て、「自分が意欲的に取り組むことができること」というアンテナをもとに考えるようになったという。SIAが萌芽となった「スマイルfamily」の事業展開について、現在はアートセラピーと対話のワークショップを進めていると話す。最終的には、就労支援の一環として事業を展開していきたいという。

このような事業の根底にある、小山さんが目指す社会とは「個性が生きる社会」。「うつ病」をはじめとする様々な精神疾患や障害を抱えていることを、なかなか人に言いづらい文化が残っているのが社会の現状である。気軽にSOSを出すことができるように、そして「自身が抱える疾患と共に、前向きに生きている」と胸を張って言える社会に。「一見ネガティヴに捉えられがちなことも、個性として前向きに受け入れられるあたたかい社会を目指したい」と力強く語る。

〈プロフィール〉
小山 美穂
HMK DESIGN チーフディレクター/複業フリーランス
スタートアップ企業や自社サービスを展開している企業のWEBサービス・アプリディレクションやデザイン作成/コーディング(一部開発を含む)を担当するなど、多岐にわたる事業を展開。現在は、うつ当事者やその家族を支援するワークショップも手がけている。

【編集後記】
自分の直感に従って実直な努力を積み重ねる小山さんのお話を伺ったあと、生き生きとした言葉や表情が強く印象に残った。大学時代の経験を出発点に、自分の心に沸き起こった疑問や課題と対峙しながら、人生の点と点をつなぐ努力を惜しまない仕事との向き合い方に感銘を受けた。日常をこなすことで精一杯になりがちな現代において、一人でも多くの人が小山さんのように、主体的な課題解決に一歩を踏み出すことができたら、社会はもう少し希望が増えるのかもしれないとわたしは思った。(ライター:一條友希)

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