「仙台市 × 防災」震災後 10 年の歩み(3)「BOSAI」を日本から世界へ ~ 東北大学災害科学国際研究所が提案する国際認証制度「防災 ISO」
東日本大震災の発生から 10 年。防災・減災の仕組みを取り入れた新たな街「防災環境都市」に向け、仙台市の産官学金の取り組みを推進する「仙台市 × 防災」。連載 3 回目のテーマは、東北大学災害科学国際研究所が提案する国際認証制度「防災 ISO」。被災経験を国内のみならず世界に発信するための先進的な取り組みと、その根幹にある防災・減災の考え方について、同研究所よりお話を聞きました。
東北大学が提案する防災・減災に関する国際認証制度「防災 ISO」
同研究所は現在、防災・減災の世界標準を定める国際認証制度「防災 ISO」に向けた提案を、2022 年の策定に向けて行っています。中心人物である同研究所長の今村文彦教授は同制度について「これまで世界各地でそれぞれ語られてきた防災・減災の考え方に、国際標準化による『概念』を与えることで『どのような災害に対して、どのような対策が行われてきたか』が可視化できます。可視化を行うと各地がそれぞれ行っている防災システムや復興の取り組みがデータとしてわかるだけでなく、それらの改善すべき点が明らかになり、未来の防災力を高めることに繋がる新しい提案や提言に繋げられることを期待しています。」と、防災・減災の標準化を行う意義とその狙いについて話しています。
同制度の提案に向けた活動は2015年、仙台で開催された第3回国際防災会議において「仙台防災枠組2015-2030」が、世界での防災活動推進の指針として採択されたことに端を発します。その後、世界に「防災(BOSAI)」の重要性を発信するなか、2019年の第2回世界防災フォーラムでは、一般社団法人日本規格協会(JSA)と経済産業省の協力を経て、同研究所が考える「地産地防を踏まえたBOSAIの取組」を「防災ISO」とすることを発表。その後、その内容を国際標準化機構に提案し、2020年10月、同機構内に「防災ISO」を議論・開発するワーキンググループの設置が正式承認されて今日に至ります。
今後はワーキンググループでの新規提案や世界での防災・減災の現状を整理するテクニカルレポートの作成、IS(国際標準)に向けた議論の準備をそれぞれ進めていくとしています。
「地産地防」から世界に広がる「BOSAI」の輪
今村教授は取材の中で、「防災 ISO」の根幹にある「地産地防」とは、「地域の資産を地域の防災に活用すること」と話しています。同研究所が推し進める「実践防災学」の実現には災害の事前対応、災害からの復旧・復興、将来への備えのバランスが重要である一方、都市システムをはじめとするハード面の整備と、自助・公助・共助の 3 つからなる防災・減災の考え方では、未曾有の災害に対応しきれなかったとしています。これまで曖昧な線引きがされていた国・自治体・企業・民間が果たす役割の明確化を、防災 ISO を通じて行うことで、地域の中で行われるさまざまな防災・減災活動の活性化を期待したいといいます。その中で同研究所は、民間企業との産学連携や市民向け出前講座を通じた啓蒙活動を通じて多方面と連携を強めると同時に、2030 年までに「仙台防災枠組 2015-2030」で定められているグローバルターゲット(数値目標)に対して貢献していきたいといいます。
また、同研究所で海外との防災連携を研究しているヌイン・デビット特任准教授は、災害リスク(ハザードリスク)の高い国や地域間で、防災 ISO の考え方を用いた広域連携の実現に向けた調査・研究を行っています。2021 年 3 月に行われた第 3 回国連防災世界会議では、日本とチリ、トルコ、ギリシャの 4 カ国間で、地震と津波に関する情報交換のファシリテーションを防災 ISO の考え方を用いて実施し、一定の成功を収めました。この取り組みについてデビット特任准教授は「日本は島国の中でも自然災害が多い国ですが、多方面から防災・減災に関する知見が蓄積しやすく、防災研究・教育の分野で世界をリードできるポテンシャルがあると考えています」と話し、今後同様の取り組みを都市洪水分野でドイツ、山火事分野でオーストラリアの間で行いたいと、日本から世界へ「BOSAI」の輪を広げることに意欲を見せていました。これらの議論で得られた知見は防災 ISO のアップデートだけでなく、地震計や津波計といった防災・減災製品の標準化のあり方を議論する場に活かす方向で整備を進めたいとしています。
仙台市が進める「防災テック」との連携
産業面では、製品規格や品質管理のように防災・減災分野でも国際標準が定まることにより、輸出可能な製品・サービスの増加に伴う防災・減災市場の拡大と、これらの普及を通じた世界の防災力強化から、経済成長と社会的価値創出の両方に貢献できるとしています。仙台市が推進する防災・減災と ICT を組み合わせた新たな産業「防災テック」とは、防災 ISO が定義する「防災・減災」の認知・普及を行いながら、世界へ発信できる技術開発と、「仙台市 × 東北大学 スーパーシティ構想」で謳うような実証実験フィールドの整備で連携を目指します。行政による支援と併せて、民間の力を地域に活用する「産助」の動きを促し、利便性と防災・減災の両立ができるスマートコミュニティを実現したいとしています。スマートコミュニティインフラを活用して、コミュニティのレジリエンス向上=防災力アップを図るために、防災に有効な コミュニティインフラ 要素、機能を明確にしていくという方向で活動したいと思います。
また、同研究所は現在、東京大学地震研究所、富士通、川崎市の 4 者で行われた「川崎臨海部における ICT 活用による津波被害軽減に向けた共同プロジェクト」をはじめとする、宮城県内外の企業・自治体・大学との連携を数多く進めています。先日、令和3年度科学技術分野の文部科学大臣表彰(科学技術振興部門)「リアルタイム災害避難支援システムの市民参加型研究の振興」を受け、活動を高く評価されました。防災・減災の社会実装という応用研究分野での貢献が増えることに対して今村教授は「東日本大震災以前より、私たちは災害研究や地震・津波に関する基礎研究を長年推進しています。これまでの成果に誇りを持つと同時に、研究を通じた社会貢献を果たす研究所の役割は、今後も変わらないものと思っています。」と、応用研究も基礎研究と変わらない、一貫したミッションに基づいたものであることを説明しています。
災害の輪を断ち切る、東北大学のリーダーシップ
今村教授は最後に私たちに対して「2021 年現在、あらためて見ても東日本大震災というのは、我が国においても甚大かつ複合的な災害であったと同時に、原発事故を含めれば人類がこれまで体験したことがない規模の災害でありました。私たちが得たその被災経験や教訓は、日本に留まらないで、世界に共有しなければいけないと考えています。現在、新型コロナウイルスの感染拡大が全世界で猛威を振るっていいますが、その影響は直接被害、間接被害、経済とコミュニティー被害と、連鎖的に世の中へ悪影響を与え続けることでしょう。世界規模で連鎖する『災害の輪』を断ち切り、乗り切る術を、大震災を体験した総合大学として伝えてきたいです。」と、パンデミックを含む防災・減災分野における同研究所が担う役割とリーダーシップを感じさせるメッセージを語っています。
震災から 10 年、地元のニーズに寄り添い続け、防災・減災分野の第一線で活躍し続ける、東北大学災害科学国際研究所の取り組みに今後も目が離せません。
東北大学災害科学国際研究所について
東北大学災害科学国際研究所は、東日本大震災の翌年となる 2012 年4月に設立。同大学の英知を結集して被災地の復興・再生に貢献するとともに、国内外の大学・研究機関と協力しながら、自然災害科学に関する世界最先端の学際融合研究を推進しています。災害の事前対応、災害からの復旧・復興、将来への備えという、防災・減災に必要な一連のサイクルを体系化した「実践防災学」の創成・普及をミッションに、防災・減災の学術的価値創出と、地域と一体化した社会実装の両方を推し進めています。(ライター:菊池崇仁)
関連リンク
• 東北大学災害科学国際研究所
https://irides.tohoku.ac.jp/