東北で「シゴト」をするとは?東北で創業する魅力・可能性を学ぶイベントが開催!

東北で「シゴト」をするとは?東北で創業する魅力・可能性を学ぶイベントが開催!

「東北で何かしてみたい」「東北で働くことについて聞いてみたい」という人が集まり、話を聴いた

 日本政策金融公庫が主催するイベント【東北シゴト創造大学】が6月8日、東京都千代田区のTRAVEL HUB MIXにて開催された。当イベントは「東北地域と交わりながら何かを始めたい」という方に向け、新たなビジネスを生み出すきっかけを与えることを目的に企画されたもの。東北で新しく「シゴト」を生み出してきた先駆者たちの事例から、新たなビジネスチャンスの創出を促していく。第1回となる今回のテーマは、『未来につながる「シゴト」を生み出せ!~東北で創業する魅力・可能性を学ぶ~』。イベントでは、6名の登壇者がそれぞれの事例を紹介。“東北で働く”ことに関する様々な可能性を学ぶイベントとなった。
 

東北の魅力を活かした「シゴト」とは?

 第1部のテーマは『東北の魅力を活かした「シゴト」』。3名の登壇者が、それぞれの「シゴト」について説明を行った。最初に、mizuiro株式会社の代表取締役・木村尚子さんから、『おやさいクレヨン開発STORY』が語られた。

「東北で何かしてみたい」「東北で働くことについて聞いてみたい」という人が集まり、話を聴いた

デザイン系の会社に勤務していたが、“娘との親子の時間を大事にする”ために独立。最初は個人事業主だったが、事業が軌道に乗り法人化

 自宅を拠点にしながらチラシデザインなどを請け負う中で、オリジナルのプロダクトを作りたいという想いが芽生えた木村さん。地元・青森の課題を解決しつつ娘と一緒に遊べる商品として、おやさいクレヨンを開発した。おやさいクレヨンは、国産の米ぬかからとれる「米油」や「ライスワックス」をベースに、本物の野菜粉末を入れて作られた文具。主に青森県産の野菜が原料となっている。青森ではたくさんの野菜が生産されているが、じつは加工・流通されないものも多い。通常であれば廃棄される野菜を活用した商品を販売し、「青森に外貨を流すことで少しでも地元を活性化したい」と考えたという。クレヨンを作れる製造工場を自力で探し出すなど地道な活動が実り、現在では海外展開をするまでに。赤・青……ではなく、きゃべつ色・りんご色……と素材の名前を付ける独自のブランディングと、万が一口に入れても大丈夫、という安心感が評価されている。現在はクレヨンだけでなく、粘土や千代紙などプロダクトの幅も広がり、青森県の地域活性化の一端を担っている。

 次に登壇したのは、株式会社インアウトバウンド仙台・松島の代表取締役・西谷雷佐さん。テーマは『「地名」で観光客は呼べない!~インバウンドの決め手はあるもの活かしの編集力~』。

東北で「シゴト」をするとは?東北で創業する魅力・可能性を学ぶイベントが開催!

元々弘前の専門学校で観光を教えていたが、ビジネスプランコンテストでグランプリを受賞したことを機に着地型旅行会社たびすけを創業。株式会社インアウトバウンド仙台・松島は、「仙台・松島復興観光拠点都市圏DMOプラットフォーム」で戦略立案等を行う

 「旅行者にとって市町村と言う概念はあまり重要ではなく、大切なのはポジションである」と語る西谷さん。例えば、「きれいなサクラが見たい」という目的で弘前に来る人は多いが、ただ「弘前に来たい」という人はあまりいない。持続可能な観光地域が作られるためには、そこにある価値の認知度を上げることが必要だ。しかし、人がいても地域にお金が落ちないのでは意味がない。弘前のお花見でも、多くの人が訪れるが地元にはあまりお金が落ちていないという課題があった。そこにキャッシュポイントを見出したのが「手ぶらで観桜会」。旅行者は事前申し込みをすれば、手ぶらで現地に行くだけで花見を満喫できる。場所の手配、弁当や飲み物の準備、清掃だけでなく、ねぷた囃子の演奏まで楽しむことができるのだ。サービスに価値を付け、元々なかったところにキャッシュポイントを見出す。地元の魅力をうまく編集し発信することで、利益を生み出し、持続可能性が高まるのである。

 現在西谷さんは、宮城県塩竃市で新しい事業に挑戦している。それは、地域通貨「竃コイン」。旅行者はアプリをダウンロードし、お金をチャージする。お金は「竃コイン」として市内加盟店で買い物や飲食をする際に使うことができ、そのサービス料が市の地域振興に活用されるという仕組みだ。余った「竃コイン」は、Suicaにチャージできるため、旅行中に使い終わらなくても損をしない。地域内通貨を作ることで、旅行者・市内加盟店・自治体すべてにメリットを生み出す取り組みである。

 1部ラストに登場したのが、「大鳥てんご山のめぐみと民俗と人」管理人の田口比呂貴さん。

東北で「シゴト」をするとは?東北で創業する魅力・可能性を学ぶイベントが開催!

社会人2年目で経験したヒッチハイクがきっかけで地域おこし協力隊に挑戦。山形県鶴岡市大鳥に着任し、任期終了後に定住

 フリーで活動している田口さんの「シゴト」は一風変わっている。活動内容は、自然体験学習サポートや野良仕事といった地域のシゴトから山菜や茸の通販まで、幅広い。地域おこし協力隊で移住した大鳥地域に深く入り込み、仕事を生み出している。東北の山の暮らしで田口さんが意識しているのは、地域のコミュニティだという。洪水や雪崩などの有事の際、助けてくれるのは周りの人であるため、普段から恩を売り合うのだそう。例えば草刈りなどの共同作業や、田植えの際等の労働交換がそれにあたる。実際田口さん自身も、熊狩りで滑落した時に助けられた経験がある。山の暮らしにおいて、地域コミュニティの重要さが分かる事例である。また、大島で採れた山菜や茸をWEB販売する際は地域の背景を一緒に届けることで、人や文化の魅力発信を続けている。
 

東北の魅力を活かした「シゴト」について ~トークセッション&質問~

 3名の「シゴト」紹介後は西谷さんがファシリテーターとなり、トークセッションが行われた。

 最初のテーマは、「“東北の魅力”とはなにか」。木村さんによると、東北の魅力は「東北時間」。地方ならではのゆったり流れる時間に魅力を感じるそう。ワークライフバランスを整えることを目的に起業した木村さんにとって、その実現は青森にいるからこそ。「素朴な青森の暮らしを素晴らしいと思う」のだと言う。田口さんによると、東北の「“身の丈で生きる”暮らし」が魅力。東京や大阪のような商売っ気のある地域だと自分を大きく見せる言動が多くなるが、身を寄せ合って厳しい冬を乗り越える東北はそうではなく、助け合いが軸にある。そこが魅力なのだという。

 次のテーマは、「“シゴト”とはなにか」。木村さんにとって、仕事は趣味であり生きがい。何事も楽しむことで、今まで知らなかった世界を受け入れていくことが出来る。また山で暮らす田口さんにとっては、仕事とは暮らしと直結するもの。お金を稼ぐこと・そうではないことが混在しているのが、自分にとっての仕事、と語る。例えば、薪を調達し薪ストーブにする一連の流れは収入にはならないが、支出を減らすことに繋がるのだという。

 トークセッション後には、参加者からの質問コーナーも設けられた。まず木村さんに、「おやさいクレヨンの開発費はどのように捻出したのか?」という問いかけが。木村さんによると、まず自治体の補助金やクラウドファンディングなどを活用したそう。行政のサポートや補助金制度はたくさんあるため、そこにアンテナを張るのが良いとのこと。ただ、補助金はいつまでも貰えるものではないため、自走する仕組みは作っていったほうが良いという念押しも。

 最後に、参加者から「これから起業する人へのアドバイス」がそれぞれに求められた。木村さんからは、「起業自体はすぐにできるが、難しいのは継続。仮にダメになっても殺されることは無いので、またやればいい、くらいの気持ちでやったほうが良い」という助言が。また西谷さんからは、「巻き込む力・周りをワクワクさせる力が必要。また、カラーの異なる中までチームを作ることが重要」というアドバイスがあった。
 

東北の「シゴト」の未来とは?

 第2部のテーマは、『東北の「シゴト」の未来を考える』。1人目の登壇者は、釜石市オープンシティ推進室長/内閣官房シェアリングエコノミー伝道師の石井重成さん。テーマは「つながりを生かすまちづくり」について。

東北で「シゴト」をするとは?東北で創業する魅力・可能性を学ぶイベントが開催!

被災地を訪れたことがきっかけで会社を辞め、釜石市に移住。釜石市役所で任期付職員として様々な取り組みを進める

 釜石市では、震災により人口の40分の1にあたる人々が亡くなった。約100年前の人口と同じくらいまで、急激に減少してしまったとされている。石井さんが重要視するのは、人と人の繋がりによる化学変化。「自分の成長が地域の変容に繋がっていく仕組みを、行政としていかに作るかが重要」と語る。石井さんは、高校生への教育プログラムを通じ、地元就職希望者を増やす取り組み等を行っている。また、シャッター街となっていた商店街を再建する取り組み事例もある。コワーキングスペースやカフェ、ゲストハウスができるなど、釜石市で多様な挑戦の場が作られている。現在では5年前に比べ若干人口が増え、少しずつ統計的にも効果が出始めているという。

 2人目の登壇者は、秋田商工会議所秋田県事業引継ぎ支援センター統括責任者の河田匡人さん。テーマは「後継者人材バンク事業の取り組み」。

東北で「シゴト」をするとは?東北で創業する魅力・可能性を学ぶイベントが開催!

自治体とセンターが連携し、後継者不足に悩む中小企業・小規模事業者の支援を行う。価値ある事業の「継承」を促進している

 河田さんが行うのは、事業意欲のある人・後継者を探している人同士を引き合わせることだ。お見合いのように両者を引き合わせ、前向きであれば実現に向けて動き出す。事業意欲があっても、1から始めるのは金銭的に難がある。それが事業承継であれば、「金銭問題が軽減されるだけでなく経営のノウハウなども継承できるため、チャレンジできる幅が広がる」と言う。事例として、秋田県由利本荘市のカフェ・カトルセゾンが紹介された。地域に愛された店ということもあり、オーナーとしては閉業ではなくお店を残していきたいという想いがあった。センターとともに募集をした結果、愛知県在住の夫妻が由利本荘市に移住し、カフェ業態を引き継ぐことになったという。

 最後に登壇したのが、一般財団法人ふくしま百年基金・代表理事の山﨑庸貴さん。テーマは「NPOの“しごと”と“みらい”」について。

東北で「シゴト」をするとは?東北で創業する魅力・可能性を学ぶイベントが開催!

元々東京で仕事をしていたが、震災を機に「自分は福島の人間だ」というアイデンティティに気付いた。福島県初のコミュニティ財団として、「一般財団法人ふくしま百年基金」を設立

 震災後、福島県ではNPOが続々誕生しており、その伸び率は全国1位。現在県内で活動しているNPOの4割近くが、震災後に立ち上がったと言われている。山崎さんが行うのは、福島を改善するための活動に対する援助。住民や地域団体、全国から資金を預かり、福島を良くしていくための活動に対し資金助成や融資を行いサポートしている。山崎さんは「NPOで求められるスキルはすごくたくさんあり、100人いれば100通りの仕事ができる」と語る。課題解決を行うNPOの仕事は誰もが経験したことのない事業に取り組むことに繋がるため、求められるスキルも多岐に渡るのである。
 

東北の「シゴト」を考える ~トークセッション&質問~

 3名の「シゴト」紹介後は、石井さんがファシリテーターとなり『東北の「シゴト」を考える』をテーマにトークセッションが行われた。

 最初のテーマは、「福島でのソーシャルセクターの可能性」について。山﨑さんの回答は、「可能性だらけ」。アメリカでは10年ほど前、NPOが就職希望ランキングの1位に輝いた。「NPOで働く」というキャリアが世界で認知されてきているのである。まだ日本ではNPOキャリアはマイナーだが、福島県ではあえてNPOを選ぶ人が増えてきているという。都心部の一流企業を辞め、地域の可能性を感じて戻ってくる人が今後のキャリアを切り開いている印象があるそうだ。

 次のテーマは、「チャレンジしたい人は、何を大事にしたらいいか?」。河田さんからは、「地域なのか、それとも仕事内容なのか“何を優先したいのか”の順位を考えてみるのが良い」というアドバイスがあった。また、山﨑さんは「何をするか、より誰とするか、が重要」と話す。この人と仕事がしたい、と思える人との出会いがきっかけになるかもしれないので、目を配ってみると良いのでは、とのこと。

 また、第1部と同様最後に質問コーナーが設けられた。最初の質問は「地方で創業したいイメージはあるが、“地方で必要とされていること”をやるべきか、“自分がやりたいことをやるのか”で悩んでいる。どっちがうまくいくのだろうか?」というもの。山﨑さんからは、「自分のやりたいことを是非やってほしい。想いを持って貫いていける人こそが、求められている人材である。最終的に人がついていくのは、想いだから」という回答があった。

 最後の質問は、「東北で起業する意味とはなにか?」。それに対し、石井さんは「都市部のキャリアとローカルキャリアを比較して、何が違うのか?大きな組織の一人として働くのか、それとも小さな組織の心臓として働くのかの違いだと思う」と回答していた。

 
 6名の事例から「東北でシゴトをする」ことの魅力や多様性を学び、盛況の中イベントは進行。地方で働きたい、という声はよく聞くが、そうしない理由の多くは「地方には仕事が無い」というもの。今回話を聴き、「東北にはビジネスチャンスがある」と思うとともに、「都会で培ったキャリアを生かして創業する」ことの可能性を感じた。参加者は、今東北にすでにあるシゴトを探すだけではなく、「自らシゴトを創り出す発想」の重要さを学んだのではないだろうか。

東北で「シゴト」をするとは?東北で創業する魅力・可能性を学ぶイベントが開催!

各県から派遣されたサポーターがブースを作り、相談に乗る

東北で「シゴト」をするとは?東北で創業する魅力・可能性を学ぶイベントが開催!

イベント終了後は懇親会。各県の郷土料理がふるまわれ、参加者・登壇者が入り交じり食事を楽しんだ

 

【東北シゴト創造大学】イベント概要

開催日:2019年6月8日(土)
主催:日本政策金融公庫
共催:青森県、岩手県、秋田県、宮城県、山形県、福島県
後援:財務省東北財務局、農林水産省東北農政局、経済産業省東北経済産業局、株式会社パソナ、一般社団法人移住・交流推進機構(JOIN)

登壇者:
~第1部~
mizuiro株式会社 代表取締役 木村尚子
株式会社インアウトバウンド仙台・松島 代表取締役 西谷雷佐
大鳥てんご 山のめぐみと民俗と人 管理人 田口比呂貴

~第2部~
釜石市 オープンシティ推進室長/内閣官房 シェアリングエコノミー伝道師 石井重成
秋田商工会議所 秋田県事業引継ぎ支援センター 統括責任者 河田匡人
一般財団法人ふくしま百年基金 代表理事 山﨑庸貴

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